第75話:草と土の匂い
種蒔きから百六十七日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。第一耕地で二本。第三耕地は前の日に五本を収穫していた。今日は残っている分に水をかけた。水場の近くで霧花草を一束採った。合わせて五本を布袋に入れた。
割れ目には今日入らなかった。ドゥルガが来る日だった。
*
小屋に戻った。乾燥台に五本を並べた。霧花草を刻んで別鍋に入れた。炭に火をつけた。
この三日の間に積み上がっていた分(第三耕地の昨日の収穫分を含む)を含めると、乾燥台分を加える前の通常品が三百八十六本になっていた。一時間ほどで通常品五本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が三百九十一本になった。混合品が三十本になった。
棚を通常品左、混合品右に整えた。
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昼前、ドゥルガが来た。荷馬車が山道から上がってきた。白い髭に日焼けした顔だった。扉を叩いてから入ってきた。棚を一度、端から端まで見た。
「三百九十一本か。よく積み上げた」
「十本、用意できています」
「見せてくれ」
棚から十本を取り出した。ドゥルガが一本を手に取り、光にかざした。薄い緑色が揺れた。匂いを確かめた。それから戻した。
「変わらない品だ。いただこう」
銀貨が二十枚、布袋で渡された。受け取って棚の奥に置いた。
「ありがとうございます」
ドゥルガが丸太に腰を下ろした。旅の疲れを落とすような落ち着き方だった。
「一つ伝えておくことがある。ロウン街道をこちらへ上がってくる途中、気になるものを見た」
「何を見ましたか」
「教会の者の格好をした人間が、集落の端で話を聞いていた。わしがそこを通った時には誰に聞いていたかはわからなかったが、様子が違った。ただ通り道に寄った旅人じゃない。調べている者の動き方だ」
(ドゥルガも見た)
「ロウン街道のどのあたりでしたか」
「一番こちら側の集落だ。タルン村まで一日か二日のところだ」
「そうですか」
「急いで何かする必要はない。ただ知っておけ」
「はい。ありがとうございます」
ドゥルガが少し間を置いた。それから、ふと口を開いた。
「わしはガルドのことを昔から知っていた。お前が来てから、ガルドのことを少し思い出すようになった」
(祖父のことを)
「どんな方でしたか」
「いつも草と土の匂いがした。あの山の匂いだ。話す量が少ない男だったが、口にするものは無駄がなかった。信用のおける男だった」
「どこから来た方か、知っていましたか」
ドゥルガが首を振った。
「聞いたことがない。聞ける雰囲気でもなかった。聞く必要もないと思っていた。信用できるかどうかは出どころではなく、やり取りの積み重ねで決まる。それはガルドから学んだことの一つだ」
(祖父から学んだこと)
「そうですか」
「お前はガルドに似ている。話す量が少ない。受け取り方が素直だ。それはいいことだ」
ドゥルガが立ち上がった。
「来月また来る。変わらず積み上げておいてくれ」
「はい。必ず」
荷馬車が山道へ遠ざかった。
*
棚を見た。十本が出て、通常品が三百八十一本になっていた。混合品は三十本のままだった。
記録の紙を開いた。「ドゥルガ来訪、通常品十本売却、銀貨二十枚受取。ロウン街道一番こちら側の集落で教会の者の格好をした人間が動きを見せていると報告。タルン村から一日か二日の距離。ガルドのことを話してくれた。草と土の匂いがした。出どころを聞いたことはないと言っていた」と書いた。
*
夕方、ミアが来た。
扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。
「三百八十一本か。混合品が増えた」
「今日霧花草が採れた。ドゥルガが来た」
「何か言っていたか」
「ロウン街道の一番こちらの集落で教会の者の格好をした人間が動いていたと。タルン村まで一日か二日のところだ」
ミアが一度頷いた。
「師匠に話す。近くなった」
「そうだ。それと——祖父のことも少し話してくれた」
「ガルドじいさんを」
「草と土の匂いがしたと。どこから来た方か聞いたことがないと言っていた。聞く必要がなかったと」
ミアが少し黙っていた。
「師匠も同じかもしれない」
「何が」
「ガルドじいさんのどこから来たかは聞いていないかもしれない。でも信用していた」
(そうかもしれない)
「師匠に報告する」
「頼む」
扉が閉まった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「ドゥルガが来ました。ロウン街道の一番こちら側の集落で、教会の者の格好をした人間が動いていたと伝えてくれました。タルン村から一日か二日の距離だと」
シルバが炉の前で顔を上げた。
「そこまで来ているか」
「はい。急ぐ必要はないとドゥルガは言っていましたが」
「ドゥルガが言う通りだ。来た時の対応は決まっているな」
「記録しています」
「それでいい。こちらからは動かなくていい」
少し間があった。
「ドゥルガが祖父のことを話してくれました。草と土の匂いがしたと言っていました。どこから来た方か聞いたことがないと」
シルバが炉の方を向いた。
「ドゥルガがそう言ったか」
「はい」
「ガルドは出どころを話さない男だった。俺も最初は知らなかった。あとから少しずつわかったことがある」
(シルバじいさんは知っている)
「知ることができましたか」
「少しは。ただ、ガルドがどこから来たかより、どんな男かの方が先にわかった。それで十分だった」
炉の火が揺れた。
「来た時はきちんと対応することだ」
「はい」
「ドゥルガとの取引は続けていい。信用できる商人だ」
「わかりました」
*
夜、経営の書を開いた。
「知らないことと、知る必要がないことは違う。信用は相手の出どころから生まれない。積み重ねた言葉と行動から生まれる。先に信用するのではなく、やり取りの中で形になるものだ」
(ドゥルガが祖父から学んだと言っていた。草と土の匂い。どこから来た方か聞いたことがない。でも信用していた。シルバじいさんも同じだったかもしれない。俺も同じかもしれない)
棚を見た。通常品が三百八十一本。混合品が三十本。
明日も採りに行く。




