第71話:月末の先
種蒔きから百五十六日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。第一耕地で二本。第三耕地は今日が頃合いで、五本を収穫した。合わせて十本を布袋に入れた。三か所に水をかけた。
割れ目には今日入らなかった。月末の日だった。
*
小屋に戻った。棚を確かめた。この三日の間に採取と収穫を続けていた分が積み上がっており、乾燥台から棚に移した分を含めると通常品が四百四十六本になっていた。混合品が二十八本あった。
(百五十本は超えている)
乾燥台に十本を並べた。炭に火をつけた。棚を通常品左、混合品右に整えた。並べ直すと見え方が変わった。数が多いほど、整えた時の違いが出る。シルバじいさんに最初に教わった。
一時間ほどで十本が仕上がった。棚に加えた。通常品が四百五十六本になった。
*
昼前、セイロスが来た。
一人だった。道歩きに慣れた格好だった。扉を叩いてから入ってきた。棚を一度、端から端まで見た。
「四百五十六本か」
「そうです。百五十本、用意できています」
「見せてくれ」
棚から百五十本を木箱に移した。セイロスが数を確かめた。一本を手に取り、光にかざした。薄い緑色が揺れた。次に匂いを確かめた。それから戻した。
「同じ品質だ」
「はい」
木箱を外の荷馬車に運んだ。二人で運んだ。セイロスが銀貨の袋を取り出した。三百七十五枚分だった。
「受け取ってくれ」
袋を受け取った。重みを手のひらで確かめた。毎回同じだけ重く感じた。慣れるということはなかった。
「ありがとうございます」
セイロスが少し間を置いた。荷馬車の横に立ったままだった。
「一つ伝えておく方がいいことがある」
「どうぞ」
「教会の者が、エクラからロウン街道の方へ向かったという話が複数の口から入った。場所を確かめに動いたものと見ている。タルン村の名前が出ているかどうかはまだ確認できていないが、前回の報告から考えれば、知っている可能性は高い」
(一段、近くなった)
「わかりました。教えてくれてありがとうございます」
「来た時にどう対応するか、決めておいた方がいい。こちらでも気にしている。何かあれば知らせてくれ」
「はい」
セイロスは手綱を取った。動かす前に振り返った。
「来月末、また来る」
「お待ちしています」
荷馬車が山道の方へ遠ざかった。土埃がしばらく残った。
*
小屋の中に戻った。百五十本が出て、通常品が三百六本になっていた。混合品は二十八本のままだった。
銀貨の袋を棚の奥に置いた。記録の紙を開いた。「月末。セイロス来訪、百五十本引き渡し、銀貨三百七十五枚受取。教会の者がエクラからロウン街道方面へ向かったとの続報あり」と書いた。
その下に、ゴルドから言われていた言葉を書き足した。「来た時の対応:ダンジョンの話はしない。ポーションの小屋があるとだけ言う」と。
(来るとすれば、いつ来てもいいように準備しておく。今できることはそれだけだ)
棚を見た。薄い緑のポーションが三百六本、端から端まで並んでいた。それを確かめてから、残りの仕事に戻った。
*
夕方、ミアが来た。
扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。
「三百六本か」
「月末だった」
「そうか」
ミアは丸太に腰を下ろした。
「ルウという人と師匠が今日会った。私が案内した」
「会えたか」
「会えた。師匠の小屋の前まで連れて行った。二人が中で話していた。私は外で待った。一刻ほどだった」
「どんな話をしていたか」
「聞いていない。外にいた。終わって師匠が出てきた時に、一言だけ言った」
「何と言っていたか」
「『昔の仲間を知る者がここに来るとは思わなかった』と」
(昔の仲間)
レインは少し間を置いた。
「師匠が、そう言ったのか」
「そうだ」
「あまり言わないか、そういうことは」
「言わない」
ミアは言葉を足さなかった。短い答えだったが、それで十分だった。
(ゴルドも、ガルドじいさんと古い付き合いがあった。ルウが来て、ゴルドが言わないようなことを言った。みんなが昔どこかで繋がっていた。その繋がりの中心に、この場所があった)
「セイロスから教会の続報があった。ロウン街道の方へ向かった者がいるとのことだ」
ミアが一度頷いた。
「師匠に話す」
「頼む。来た時の対応は記録に書いておいた」
「そうか」
ミアが立ち上がった。扉の前で少し止まった。
「師匠がもう一つ言っていた。『ルウという人間は正直な人間だ』と」
(師匠がそう評した)
「そうか」
「師匠がそういうことを言うのは珍しい」
扉が閉まった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「月末でした。セイロスが百五十本を引き取りました。銀貨三百七十五枚です」
「そうか」
「教会の者がエクラからロウン街道の方へ向かったという話が複数の口から入ったと、セイロスが伝えてくれました」
シルバは炉の前に座ったままだった。しばらくして、
「来るとすれば、まだ少し先だろう。来た時の対応は決めてあるか」
「記録に書きました。ゴルドから言われた通りです」
「それでいい」
少し間があった。
「ルウとゴルドは会えたか」
「ミアが案内してくれました。一刻ほど話していたそうです。師匠が『昔の仲間を知る者がここに来るとは思わなかった』と言ったとミアが教えてくれました」
「ゴルドが、そう言ったか」
「はい」
シルバは炉の方を向いた。少しの間、何も言わなかった。
「ゴルドがそういうことを言うのは珍しい」
「ミアも同じことを言っていました」
しばらく静かだった。炉の火が揺れた。それから、シルバが口を開いた。
「俺もガルドとはずっと前から付き合いがあった。ゴルドも、ルウも、それぞれにガルドと繋がっていた。お前の知らないところでな」
(シルバじいさんが、初めてそう言った)
レインは何も言わなかった。
シルバが続けた。
「今がその繋がりの始まりではない。ずっと前から続いていたことが、今ここに集まってきているだけだ。お前はその中心にいる。それだけ覚えておけ」
「はい」
それ以上は続かなかった。
*
夜、経営の書を開いた。
「積み上げてきたものが、ある日つながることがある。つながる前には見えない。つながった後で初めて、それがずっとそこにあったとわかる。道は後ろを向いた時だけ見える」
(シルバじいさんがガルドじいさんと付き合いがあったと言った。ゴルドも、ルウも、ケルンも。みんなが祖父と繋がっていた。その繋がりの先に、俺がいる)
棚を見た。通常品が三百六本。混合品が二十八本。
明日も採りに行く。




