第70話:三人
種蒔きから百五十三日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。第一耕地で二本。第三耕地は今日収穫がなかった。三か所に水をかけた。
割れ目の方へ向かった。
*
割れ目に一歩入った。十八歩進んで向こう側に出た。
刻みを確かめた。指先でなぞった。一本、二本、三本、四本、区切り、六本、七本、八本、九本、十本、十一本、十二本、十三本、十四本、十五本、十六本、十七本——。
十八本目があった。
(また来た)
十七本目の隣に、新しい線が一本あった。表面だけが荒かった。
(今日ではなかった。何日か前に来た)
器の向きを確かめた。変わっていなかった。草の残骸もそのままだった。
少し待った。音はなかった。今日は部屋を出た。奥の開口部には入らなかった。
*
大空洞を出る前に水場に立ち寄った。水を掬った。温かかった。放した。
(ケルンが来た。今日ではないが来た。次に会えるかもしれない。どこから来ているか聞いてみる)
*
小屋に戻って乾燥台に五本を並べた。炭に火をつけた。
仕上がるのを待っている間に棚を確かめた。この四日の間に通常品が増えていた。通常品が四百三十一本になっていた。混合品が二十八本あった。
(月末まで三日だ。セイロスが来る。百五十本はできている)
準備はできていた。
*
昼前、シルバの小屋へ行った。扉を叩くと、シルバが開けた。中にルウがいた。
「来たか。入れ」
三人で座った。
ルウが最初に口を開いた。
「ポーションの話を、もう少し聞いていいか」
「どうぞ」
「混合品の原料は、霧穴の中でしか取れないのか」
「そうです。大空洞の特定の場所にしか生えていません。今は耕地を作って育てていますが、外に持ち出すと鮮度が落ちます」
「霧穴が使えなくなれば、作れなくなる」
「そうなります」
ルウはシルバを見た。シルバは炉を見ていた。
「教会がここに来るとすれば、ポーション目当てではない。場所だ」
「それは——」
「わかっている」とシルバが言った。「霧穴には、ポーション以外のものがある。教会がそれを知っているかどうかはわからない。ただ、知ろうとしているのは確かだ」
レインは二人を交互に見た。
「何があるのですか」
しばらく沈黙が続いた。
ルウがシルバを見た。シルバがルウを見た。
シルバが口を開いた。
「今は言えない。いつか言う。ただ——」
少し間があった。
「ガルドはお前のことを信じていた。それだけは本当だ」
(信じていた)
レインは何も言わなかった。
シルバが続けた。
「何も知らせずに引き継がせたように見えるかもしれない。でも知らなくてよかった部分と、知らなければできなかった部分がある。ガルドはそれをわかっていた」
ルウが言った。
「ガルドらしい」
短い言葉だったが、長い付き合いが入っていた。
(ガルドらしい、とルウは言った。ガルドを知っている言い方だった)
レインは頷いた。
「わかりました」
それだけ言った。それ以上は聞かなかった。
*
帰り際、ルウが言った。
「ゴルドという鍛冶師に会ってみたい。シルバから聞いた」
「ミアに話してみます。ミアがゴルドの弟子です」
「そうしてくれ」
外に出た。山の上の方から風が来ていた。
*
夕方、ミアが来た。
扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。
「四百三十一本か」
「そうだ。月末が三日後だ。セイロスが来る」
「百五十本は用意できているか」
「できている」
ミアは丸太に腰を下ろした。
「ルウという人はどんな話をしたか」
「教会のことと、霧穴のことと、祖父のことを少し」
「祖父のことを」
「ガルドはお前のことを信じていた、と——シルバじいさんが言った。初めてそういう言い方をした」
ミアは少し間を置いた。
「シルバじいさんが」
「そうだ」
ミアは何も言わなかった。
「ルウさんがゴルドに会いたいと言っていた。頼めるか」
「師匠に話す」
「頼む」
ミアは立ち上がった。それから、
「師匠が言っていた。信用できる人間が増えてきた、と」
「そうだな」
「師匠はそういうことをあまり言わない」
扉が閉まった。
*
夜、経営の書を開いた。
「人は先を見せないことで、後から来る者を守ることがある。何も知らないまま歩いた道が、のちに正しかったとわかる。それは歩いた者だけが知ることだ。歩いている最中には、正しいかどうかはわからない。ただ歩くだけでいい」
(ガルドはお前のことを信じていた。シルバじいさんがそう言った。今日初めて、はっきりとそう言った。信じていたから何も教えなかった。信じていたから、任せた。それだけでいい。今はそれだけわかっていればいい)
棚を見た。通常品が四百三十一本。混合品が二十八本。
三日後、セイロスが来る。




