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第70話:三人

 種蒔きから百五十三日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。第一耕地で二本。第三耕地は今日収穫がなかった。三か所に水をかけた。


 割れ目の方へ向かった。



 割れ目に一歩入った。十八歩進んで向こう側に出た。


 刻みを確かめた。指先でなぞった。一本、二本、三本、四本、区切り、六本、七本、八本、九本、十本、十一本、十二本、十三本、十四本、十五本、十六本、十七本——。


 十八本目があった。


(また来た)


 十七本目の隣に、新しい線が一本あった。表面だけが荒かった。


(今日ではなかった。何日か前に来た)


 器の向きを確かめた。変わっていなかった。草の残骸もそのままだった。


 少し待った。音はなかった。今日は部屋を出た。奥の開口部には入らなかった。



 大空洞を出る前に水場に立ち寄った。水を掬った。温かかった。放した。


(ケルンが来た。今日ではないが来た。次に会えるかもしれない。どこから来ているか聞いてみる)



 小屋に戻って乾燥台に五本を並べた。炭に火をつけた。


 仕上がるのを待っている間に棚を確かめた。この四日の間に通常品が増えていた。通常品が四百三十一本になっていた。混合品が二十八本あった。


(月末まで三日だ。セイロスが来る。百五十本はできている)


 準備はできていた。



 昼前、シルバの小屋へ行った。扉を叩くと、シルバが開けた。中にルウがいた。


「来たか。入れ」


 三人で座った。


 ルウが最初に口を開いた。


「ポーションの話を、もう少し聞いていいか」


「どうぞ」


「混合品の原料は、霧穴の中でしか取れないのか」


「そうです。大空洞の特定の場所にしか生えていません。今は耕地を作って育てていますが、外に持ち出すと鮮度が落ちます」


「霧穴が使えなくなれば、作れなくなる」


「そうなります」


 ルウはシルバを見た。シルバは炉を見ていた。


「教会がここに来るとすれば、ポーション目当てではない。場所だ」


「それは——」


「わかっている」とシルバが言った。「霧穴には、ポーション以外のものがある。教会がそれを知っているかどうかはわからない。ただ、知ろうとしているのは確かだ」


 レインは二人を交互に見た。


「何があるのですか」


 しばらく沈黙が続いた。


 ルウがシルバを見た。シルバがルウを見た。


 シルバが口を開いた。


「今は言えない。いつか言う。ただ——」


 少し間があった。


「ガルドはお前のことを信じていた。それだけは本当だ」


(信じていた)


 レインは何も言わなかった。


 シルバが続けた。


「何も知らせずに引き継がせたように見えるかもしれない。でも知らなくてよかった部分と、知らなければできなかった部分がある。ガルドはそれをわかっていた」


 ルウが言った。


「ガルドらしい」


 短い言葉だったが、長い付き合いが入っていた。


(ガルドらしい、とルウは言った。ガルドを知っている言い方だった)


 レインは頷いた。


「わかりました」


 それだけ言った。それ以上は聞かなかった。



 帰り際、ルウが言った。


「ゴルドという鍛冶師に会ってみたい。シルバから聞いた」


「ミアに話してみます。ミアがゴルドの弟子です」


「そうしてくれ」


 外に出た。山の上の方から風が来ていた。



 夕方、ミアが来た。


 扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。


「四百三十一本か」


「そうだ。月末が三日後だ。セイロスが来る」


「百五十本は用意できているか」


「できている」


 ミアは丸太に腰を下ろした。


「ルウという人はどんな話をしたか」


「教会のことと、霧穴のことと、祖父のことを少し」


「祖父のことを」


「ガルドはお前のことを信じていた、と——シルバじいさんが言った。初めてそういう言い方をした」


 ミアは少し間を置いた。


「シルバじいさんが」


「そうだ」


 ミアは何も言わなかった。


「ルウさんがゴルドに会いたいと言っていた。頼めるか」


「師匠に話す」


「頼む」


 ミアは立ち上がった。それから、


「師匠が言っていた。信用できる人間が増えてきた、と」


「そうだな」


「師匠はそういうことをあまり言わない」


 扉が閉まった。



 夜、経営の書を開いた。


「人は先を見せないことで、後から来る者を守ることがある。何も知らないまま歩いた道が、のちに正しかったとわかる。それは歩いた者だけが知ることだ。歩いている最中には、正しいかどうかはわからない。ただ歩くだけでいい」


(ガルドはお前のことを信じていた。シルバじいさんがそう言った。今日初めて、はっきりとそう言った。信じていたから何も教えなかった。信じていたから、任せた。それだけでいい。今はそれだけわかっていればいい)


 棚を見た。通常品が四百三十一本。混合品が二十八本。


 三日後、セイロスが来る。

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