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第69話:来客

 種蒔きから百四十九日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。第一耕地で二本。第三耕地は今日収穫がなかった。三か所に水をかけた。


 割れ目には今日入らなかった。ケルンが次に来るのを待てばいい。


 小屋に戻った。



 乾燥台に五本を並べた。炭に火をつけた。


 待っている間に記録の紙を整えた。これまでの探索と取引の記録を日付の順に並べ直した。ゴルドから言われていた通り、日付と場所と見たものだけを書いた。並べると積み重なった日数が見えた。


 整えているうちに、扉が叩かれた。


「どうぞ」


 開いたのは見知らぬ人だった。


 六十ほどの女性だった。白い髪を短く刈りそろえており、道歩きに慣れた様子の衣服を着ていた。革の荷袋を肩から下げていた。靴に道の土が残っていた。


 女性は入口のところに立ったまま、棚を見た。一列に並んだポーションを順番に目で追った。


「中を見せてもらえるか」


「どうぞ」


 女性は棚に近づいた。通常品を一本手に取った。瓶を光にかざした。色を確かめた。次に匂いを嗅いだ。丁寧だったが、手際がよかった。迷っていなかった。


「いい色が出ている。乾燥はどこでしている」


「小屋の中です。炭で火をかけています」


「時間は」


「一時間ほどです」


「素材は」


「霧穴の中で採っています」


 女性はその瓶を戻した。今度は混合品の棚へ視線を移した。


「こちらは」


「霧穴の中でしか採れない草を混ぜています。通常品とは異なります」


「どう違う」


「持続時間が長くなるようです。深い傷への効きも変わります」


 女性は混合品を一本手に取った。色を確かめた。通常品より少し深い緑色だった。匂いを嗅いだ。甘い匂いが混じっているのがわかるようだった。


「どれくらい長くなる」


「正確な数字は出ていませんが、倍近くという記録が残っています。実際に使った者からは、痛みが早く引いて長く続くと聞いています」


 女性はゆっくりと瓶を戻した。


「ガルドの孫か」


 レインは少し驚いた。


「はい。レインといいます。ガルドは私の祖父です」


「そうか」


 女性はもう一度棚を見た。それから、


「私はルウだ。エクラから来た。シルバの古い知り合いだ」


「シルバじいさんに案内します」


「そうしてくれるか。ただ、もう少し聞いていいか」


「どうぞ」


 ルウはさらにいくつか聞いた。一日に何本作れるか。素材の採取に毎日行くか。耕地というのはどういうものか。短い質問で、レインが答えると次に進んだ。説明を求めなかった。数字と事実だけを聞いた。



 一時間ほどして、小屋に鍵をかけてルウをシルバの小屋まで案内した。


 シルバが扉を開けた。


 ルウを見た瞬間、シルバは少し動きを止めた。それだけだった。


「ルウ」


「シルバ」


 それだけだった。


 シルバが中に入るよう言った。ルウが入った。


「外で待ちます」


 レインがそう言うと、シルバが「入れ」と言った。


 三人で座った。しばらく、道の話をした。エクラからここまでの話。ルウが馬車で途中まで来て、残りを歩いたという話。シルバが「足は」と聞き、ルウが「問題ない」と言った。


 しばらくして、ルウが言った。


「教会の動きは聞いていた」


「それで来たか」


「それだけではない。ただ今は動いた方がいいと思った」


 そこで話が止まった。シルバがレインの方を一度見た。


「今日はここまでだ。続きは明日話す」


 レインは立ち上がった。


「わかりました。ルウさん、泊まる場所は」


「シルバが世話すると言っている」


 外に出た。夕暮れが山の端にかかっていた。



 小屋に戻って残りの仕事を終えた。棚を確かめた。通常品が四百一本になっていた。


 夜、ミアが来た。


 扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。


「四百一本か」


「そうだ」


「エクラからの客が来たと聞いた」


「来た。ルウという名前の女性だ。シルバじいさんの古い知り合いだと言っていた」


 ミアは少し間を置いた。


「ポーションを見ていたか」


「棚を丁寧に見ていた。いくつか聞いてきた。手際がよかった」


「ガルドじいさんのことは」


「祖父のことを知っていた。ガルドの孫か、と聞いてきた」


 ミアは何も言わなかった。しばらくして、


「師匠に話した」


「ゴルドに?」


「ルウという名前を言ったら、少し間があった。昔一度会ったことがあると言っていた」


(ゴルドも知っていた。名前を聞いただけで)


「そうか」


「師匠が会ってみてもいいかと言っていた」


「シルバじいさんに伝えてみる」


「頼む」


 ミアは立ち上がった。


「教会の話でここに来たのか」


「そうかもしれない。それだけではないとも言っていた」


「そうか」


 扉が閉まった。



 夜、経営の書を開いた。


「人は場所を通じて繋がることがある。同じ場所を知る者が、時を経てそこに集まってくることがある。場所が人を引き寄せるのではない。その場所を知っている者が、引き寄せ合うのだ」


(ルウが来た。シルバじいさんが知っていた。ゴルドも名前を知っていた。ケルンが来ていた。みんな、霧穴のことを知っていた。祖父が繋がっていた人たちが、少しずつここに集まってきている)


 棚を見た。通常品が四百一本。混合品が二十八本。


 明日も採りに行く。

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