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第65話:十四本

 種蒔きから百三十五日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。第一耕地で二本。第三耕地は今日収穫がなかった。三か所に水をかけた。


 割れ目の方へ向かった。



 割れ目に一歩入った。六歩目あたりで壁の苔が光り始めた。十八歩進んで向こう側に出た。


 刻みを確かめた。指先でなぞった。一本、二本、三本、四本、区切り、六本、七本、八本、九本、十本、十一本、十二本、十三本——。


 十四本目があった。


(また来た)


 十三本目の隣に、新しい線が一本あった。表面だけが荒かった。三日の間に来た。


(三日続いた。次も三日か、五日か)


 器の向きを確かめた。変わっていなかった。草の残骸もそのままだった。


 部屋の中で十分ほど立っていた。苔の光が壁から静かに広がっていた。音は何もなかった。


(今日は来なかった。三日で来たとすれば、今日はまだ間があるのかもしれない。次に来た時はもっと長くいる)


 奥の開口部の前に立った。松明を出した。火をつけた。



 一歩入った。二歩目で床が傾いた。四歩目で右に曲がった。五歩目で足元が湿った。六歩目で壁の感触が変わった。


 十歩目を踏んだ。右の壁の縦の溝を確かめた。一本のままだった。


 十二歩目。左の壁の丸い突起を確かめた。変わっていなかった。


 十五歩目を踏んだ。右の壁の縦の溝を確かめた。二本のままだった。


 二十歩目を踏んだ。右の壁の縦の溝を確かめた。三本のままだった。


 二十一歩、二十二歩、二十三歩。床の傾きが続いていた。二十四歩目を踏んだ。


 二十五歩目を踏んだ。


 右の壁に何かがあった。松明を近づけた。


 縦の溝が四本あった。均等な間隔で並んでいた。長さは十歩目・十五歩目・二十歩目の溝と同じだった。表面は滑らかで、古いものだった。


(十歩目に一本、十五歩目に二本、二十歩目に三本、二十五歩目に四本。間違いない。五歩ごとに一本ずつ増えている)


 ゆっくりと触れた。四本とも同じ深さだった。同じ古さだった。


(前に歩いた者が、ここまで来た。三十歩目には五本があるはずだ)


 二十六歩目は踏まなかった。松明の残りを確かめた。まだ燃えていた。


(今日はここまでにする)


 引き返した。



 部屋の刻みをもう一度確かめた。十四本のままだった。


 割れ目を抜けて大空洞に出た。スケイルリザードの姿はなかった。


 水場の前で立ち止まった。水を一度掬った。温かかった。放した。


(二十五歩目に四本。前に歩いた者がここまで来た。距離を刻みながら歩いていった。次は三十歩目だ)



 小屋に戻って乾燥台に五本を並べた。炭に火をつけた。


 待っている間に、机の上の紙を引き寄せた。ゴルドから言われていたことを思い出した。取引の記録だけでなく、探索の記録も紙に残しておけ、と。ミアが先日その話を伝えてくれた。


 書き始めた。


 日付、場所、刻みの数、部屋の様子、通路の長さ、溝の数。見たものだけを書いた。感じたことは書かなかった。書き終えると、事実だけが短く並んでいた。


(これでいい。続ければ積み重なる)


 一時間ほどで五本が仕上がった。棚に並べた。通常品が三百六本になった。



 夕方、ミアが来た。


 扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。


「三百六本か」


「そうだ」


「刻みはどうだった」


「十四本になっていた。三日の間に来た」


 ミアは少し間を置いた。


「三日続いた」


「今回も三日だった。五日の時もある。一定ではない」


「次に行く時も長くいるか」


「もう少し長くする。今日は十分待ったが来なかった」


「そうか」


 ミアは丸太に腰を下ろした。


「二十五歩目はどうだった」


「溝が四本あった。十歩目・十五歩目・二十歩目と同じ形で、同じ古さだった。五歩ごとに一本ずつ増えている」


「次は三十歩目か」


「そう思っている」


「師匠が聞いてくると言っていた」


「ゴルドが?」


「記録の話だ。どこまで書いたか。続けているかどうか」


「今日から始めた」


「そうか」


 ミアは立ち上がった。


「伝えておく」


 扉が閉まった。



 シルバの小屋へ向かった。


「刻みが十四本になっていました。三日の間に来たようです」


「器の向きは」


「変わっていませんでした」


「そうか」


「奥の開口部に二十五歩目まで入りました。二十五歩目の右の壁に縦の溝が四本ありました。十歩目・十五歩目・二十歩目の溝と同じ形で、同じ古さでした」


 シルバは少し間を置いた。


「四本になったか」


「はい。五歩ごとに一本ずつ増えています」


 しばらく黙っていた。


「次は三十歩目だ」


「はい。松明を二本持っていきます」


「そうしろ」


「エクラからの返事はまだですか」


「もう少し待て」


 それ以上は続かなかった。



 夜、経営の書を開いた。


「道を刻んだ者は、自分のために刻んだ。しかしその印は次に来た者のものになった。用意した者の意図を、読む者が引き継ぐ。それが道の使い方だ」


(二十五歩目に四本。三十歩目には五本があるはずだ。刻みを刻む者は今日も来た。記録を書いた。今日もひとつ動いた)


 棚を見た。通常品が三百六本。混合品が二十七本。


 明日も採りに行く。

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