第63話:二十歩目
種蒔きから百二十九日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。第一耕地で二本。第三耕地は今日収穫がなかった。次のグループはまだ小さかった。三か所に水をかけた。
霧花草を一束採取した。水場の近くで育っているものを選んで摘んだ。
割れ目の方へ向かった。
*
割れ目に一歩入った。六歩目あたりで壁の苔が光り始めた。十八歩進んで向こう側に出た。
刻みを確かめた。指先でなぞった。一本、二本、三本、四本、区切り、六本、七本、八本、九本、十本、十一本——。
十二本目があった。
(増えた)
十一本目の隣に、新しい線が一本あった。表面だけが荒かった。最近刻まれたものだった。
(月末から三日の間に来た)
器の向きを確かめた。変わっていなかった。草の残骸もそのままだった。
(いつか、ここで会う。近づいている)
奥の開口部の前に立った。松明を出した。火をつけた。
(今日は二十歩目まで入る)
*
一歩入った。二歩目で床が傾いた。四歩目で右に曲がった。五歩目で足元が湿った。六歩目で壁の感触が変わった。七歩目、八歩目、九歩目。
十歩目を踏んだ。右の壁の縦の溝を確かめた。一本のままだった。
十一歩目、十二歩目。左の壁の丸い突起を確かめた。変わっていなかった。
十三歩目、十四歩目。
十五歩目を踏んだ。右の壁の縦の溝を確かめた。二本のままだった。
十六歩目、十七歩目、十八歩目、十九歩目。
二十歩目を踏んだ。
右の壁に何かがあった。
松明を近づけた。
縦の溝が三本あった。均等な間隔で並んでいた。長さは十歩目・十五歩目の溝と同じだった。表面は滑らかで、古いものだった。
(十歩目に一本、十五歩目に二本、二十歩目に三本)
ゆっくりと触れた。三本とも同じ深さだった。同じ古さだった。
(五歩ごとに一本ずつ増えている。目印だ。前に歩いた者が、自分の進んだ距離を刻んでいた。来た道を覚えておくための印だ)
二十一歩目を踏もうとして、止まった。松明の残りを確かめた。まだ燃えていた。
(もう少し進める。だが今日はここまでにする)
引き返した。
*
部屋の刻みをもう一度確かめた。十二本のままだった。
割れ目を抜けて大空洞に出た。スケイルリザードの姿はなかった。
水場の前で立ち止まった。水を一度掬った。温かかった。
(十歩目に一本。十五歩目に二本。二十歩目に三本。前に歩いた者がいた。部屋の刻みを刻む者と同じ者かはまだわからない。でも、この奥を誰かが歩いた。それだけはわかった)
*
小屋に戻って乾燥台に五本を並べた。霧花草を一束加えた。炭に火をつけた。
一時間ほどで通常品の五本が仕上がった。混合品の一本も仕上がった。棚に並べた。通常品が二百六十六本になった。混合品が二十七本になった。
*
夕方、ミアが来た。
扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。
「二百六十六本か」
「そうだ」
「刻みはどうだった」
「十二本になっていた。月末から三日の間に来た」
ミアは少し間を置いた。
「三日で来たか」
「三日から五日の間に来ているようだ。一定ではないが、大きくは外れない」
「そのうち顔を合わせる」
「そう思っている」
ミアは丸太に腰を下ろした。
「師匠がスケイルリザードのことを聞いた後、少し考えていた」
「何か言っていたか」
「言いかけて止めた。ガルドじいさんとは古い付き合いだったと、それだけ言った」
(ゴルドがガルドじいさんを知っていた)
「ゴルドがガルドじいさんを知っていたのか」
「師匠がそう言った。それ以上は話さなかった」
少し間があった。
「二十歩目はどうだった」
「溝が三本あった。十歩目・十五歩目と同じ形で、同じ古さだった」
「五歩ごとに増えている」
「目印だと思っている。前に歩いた者が自分の進んだ距離を刻んでいった」
ミアはしばらく考えていた。
「次は二十五歩目か」
「そう思っている」
「そうか」
ミアは立ち上がった。「シルバさんに話すか」
「今日話す」
「そうか」
扉が閉まった。
*
シルバの小屋へ向かった。
「刻みが十二本になっていました。月末から三日の間に来たようです」
「器の向きは」
「変わっていませんでした」
「そうか」
「奥の開口部に二十歩目まで入りました。二十歩目の右の壁に縦の溝が三本ありました。十歩目の一本・十五歩目の二本と同じ形で、同じ古さでした」
シルバは少し間を置いた。
「五歩ごとに一本ずつ増えている」
「はい。前に歩いた者が、進んだ距離を刻みながら歩いていったのだと思います」
「そうかもしれない」
しばらく黙っていた。
「ゴルドがガルドじいさんと古い付き合いだったと聞きました。ミアが教えてくれました」
シルバは炉から顔を上げた。しばらく何も言わなかった。
「ゴルドはそういう男だ」
それだけだった。
「一つ動いたというのは」
「待て」
それ以上は続かなかった。
「刻みが十三本になったらすぐに来い」
「はい」
*
夜、経営の書を開いた。
「道に残された跡は、刻んだ者の言葉になる。言葉を持たない跡が、次に来た者に問いかける。その問いに気づいた者は、答えを探して歩き始める」
(二十歩目に三本。前に歩いた者がいた。部屋の刻みを刻む者がいる。ゴルドがガルドじいさんと古い付き合いだった。何かがつながっているような気がする。まだわからない。でも今日も進んだ)
棚を見た。通常品が二百六十六本。混合品が二十七本。
明日も採りに行く。




