第59話:十五歩目
種蒔きから百十七日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は今日も変わらなかった。第一耕地で二本。第三耕地は今日収穫がなかった。次のグループはまだ小さかった。三か所に水をかけた。
割れ目の方へ向かった。
*
割れ目に一歩入った。六歩目あたりで壁の苔が光り始めた。十八歩進んで向こう側に出た。
刻みを確かめた。指先でなぞった。一本、二本、三本、四本、区切り、六本、七本、八本、九本、十本。
(変わっていない)
器の向きも変わっていなかった。草の残骸もそのままだった。
棚の前を離れた。奥の開口部の前に立った。
松明を一本出した。火をつけた。
(今日は十三歩目より先に進む)
一歩入った。二歩目で床が傾いた。四歩目で右に曲がった。五歩目で足元が湿った。六歩目で壁の感触が変わった。七歩目、八歩目、九歩目。
十歩目を踏んだ。右の壁の縦の溝を確かめた。一本のままだった。
十一歩目、十二歩目。左の壁の丸い突起を確かめた。動かなかった。
十三歩目を踏んだ。
通路は続いていた。天井は低いままだった。足元の湿り気がまた少し増えた。
十四歩目を踏んだ。壁に手を当てながら進んだ。両側とも同じ感触だった。岩盤に土が混じったざらつき。音は何もなかった。
十五歩目を踏んだ。
右の壁に何かがあった。
松明を近づけた。
縦の溝が二本あった。並んで刻まれていた。間隔は均等だった。長さは十歩目の溝と同じだった。表面は滑らかで、古いものだった。
(十歩目に一本、十五歩目に二本)
ゆっくりと触れた。二本とも同じ深さだった。新しさは感じられなかった。
(五歩ごとに数が増えている。目印か、それとも何かを数えているのか)
十六歩目を踏もうとして、止まった。
(今日はここまでだ)
引き返した。
*
部屋の刻みをもう一度確かめた。十本のままだった。
割れ目を抜けて大空洞に出た。スケイルリザードの姿はなかった。
水場の前で立ち止まった。水を一度掬って、放した。温かかった。
(十歩目に一本、十五歩目に二本、二十歩目には三本があるはずだ。この道を、前に誰かが同じように歩いた)
*
小屋に戻って乾燥台に五本を並べた。霧花草を一束加えた。炭に火をつけた。
一時間ほどで通常品の五本が仕上がった。混合品の一本も仕上がった。棚に並べた。通常品が三百二十六本になった。混合品が二十五本になった。
*
夕方、ミアが来た。
扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。
「今日は五本か」
「そうだ。第三耕地が今日なかった」
「そうか」
ミアは丸太に腰を下ろした。
「師匠の膝は今週も問題ない。昨日も階段を使っていた。足音が変わった」
「それは良かった」
「師匠自身は何も言わない。でも動きが違う」
少し間があった。
「割れ目には今日も入ったか」
「入った。十五歩目まで」
「どうだった」
「十五歩目の右の壁に縦の溝が二本あった。十歩目に一本あったものと同じ形だ。五歩ごとに数が増えている」
ミアは少し間を置いた。
「目印だな」
「そう思っている。誰かが先に歩いた跡かもしれない」
「刻みを刻んでいる者と同じ者か」
「わからない。形が違う。横と縦だ」
「そうか」
ミアは立ち上がった。
「師匠に話す。気にしているはずだから」
「頼む」
扉が閉まった。
*
シルバの小屋へ向かった。
「刻みは変わっていなかった。奥の開口部に十五歩目まで入りました」
「どうだった」
「十歩目に一本だった縦の溝が、十五歩目では二本になっていました。同じ形で、古い傷でした。五歩ごとに数が増えている」
シルバは炉の前でしばらく黙っていた。
「目印だな」
「そう思います。先に歩いた者が残したものかと」
「そうかもしれない」
少し間があった。
「会った時に何を聞くか、考えました」
シルバがこちらを向いた。
「刻みを始めた理由。いつからここへ来ているか。なぜここを知っているのか。この三つを聞こうと思っています」
「それでいい」
「何か足りないことはありますか」
「まず三つ聞け。あとは相手が話してからだ。先に聞くことを決めすぎるな」
「わかりました」
帰り際、シルバが言った。
「溝の数が次に変わっているか確かめてきてくれ。二十歩目あたりに何かある」
「はい」
*
夜、経営の書を開いた。
「道に残された印は、刻んだ者の意図を問わず、次に来た者の手がかりになる。跡を読む者は、先を歩いた者と同じ道を歩いている」
(十歩目に一本。十五歩目に二本。先に歩いた者がいる。刻んでいた者と同じ者かどうかはわからない。でもこの道を、前に誰かが歩いた)
棚を見た。通常品が三百二十六本。混合品が二十五本。
明日も採りに行く。




