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第58話:十本目

 種蒔きから百十四日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。第一耕地で二本。第三耕地は今日収穫がなかった。次のグループはまだ小さかった。水をかけた。


 割れ目の方へ向かった。



 割れ目に入った。十八歩進んで向こう側に出た。


 刻みを確かめた。指先でなぞった。一本、二本、三本、四本、区切り、六本、七本、八本、九本——。


 十本目があった。


(増えた)


 九本目の隣に、新しい線が一本あった。深さは他の刻みと変わらなかった。表面だけが荒かった。最近刻まれたものだった。


(前回は九本だった。三日の間に来た)


 器の向きを確かめた。変わっていなかった。草の残骸もそのままだった。


 棚の前を離れた。奥の開口部の前に立った。


 松明を一本出して火をつけた。


 一歩入った。二歩、三歩、四歩、五歩、六歩。


 七歩目を踏んだ。ここまでは前回来ていた。


 八歩目、九歩目、十歩目。


 右の壁の溝を確かめた。一本のままだった。増えていなかった。


(部屋の刻みは増えた。こちらの溝は変わっていない)


 十一歩目を踏んだ。


 通路が続いていた。天井は低いままだった。足元の湿り気が少し増えた。


 十二歩目を踏んだ。


 左の壁に何かがあった。


 松明を近づけた。


 岩の出っ張りだった。丸い形をしていた。大きさは握りこぶしより少し小さかった。岩盤から半分ほど突き出していた。周囲の壁と同じ材質だったが、形が整いすぎていた。


(自然ではない。誰かが削ったのか、埋め込んだのか)


 触れた。動かなかった。冷たかった。表面は滑らかだった。


(引っ張っても押しても動かない)


 周りの壁を見た。他には何もなかった。


 十三歩目を踏もうとして、止まった。


(今日はここまでだ)


 引き返した。



 部屋の刻みをもう一度確かめた。十本のままだった。


 割れ目を抜けて大空洞に出た。


 スケイルリザードが割れ目の外で待っていた。


(また来ていた)


 赤い目がこちらを向いた。動かなかった。じっとしていた。


 しばらく見ていた。スケイルリザードはゆっくりと大空洞の奥へ向かった。姿が暗がりに消えた。


(十本目があった。十二歩目の左の壁に丸い突起があった。右の溝は変わっていない)



 小屋に戻って乾燥台に五本を並べた。炭に火をつけた。


 一時間ほどで通常品の五本が仕上がった。棚に並べた。通常品が三百六本になった。混合品は二十四本のままだった。



 夕方、シルバの小屋へ向かった。


「刻みが十本になっていた。前に確かめた三日前は九本だった」


 シルバは手を止めた。


「器の向きは」


「変わっていなかった。草の残骸もそのままだった」


「そうか」


 シルバは立ち上がって窓の前に立った。


「奥の開口部にも入ったか」


「入った。十二歩目まで。十二歩目の左の壁に岩の出っ張りがあった。丸い形で、握りこぶしより少し小さかった。動かなかった」


「丸い出っ張り」


「自然ではない形だと思います。形が整いすぎていた」


 シルバは少し間を置いた。


「右の溝は」


「一本のままだった。増えていなかった」


 シルバはしばらく黙っていた。炉の方を向いていた。


「十本目になったことは、今はお前と俺だけが知っていることにしておけ」


「はい」


「次に増える時があれば、すぐに来い」


「わかりました」


 帰り際、シルバが言った。


「……その先に何があるか。その者に会った時、何を聞くか、考えておけ」



 戻る途中でミアと会った。


「今から行こうとしていた。刻みはどうだった」


「十本になっていた」


 ミアは少し歩みを止めた。


「三日前が九本だったか」


「そうだ」


「奥には」


「十二歩目まで入った。丸い岩の出っ張りがあった。自然の形ではなかった」


 ミアはしばらく考えた。


「師匠に話す。師匠は気にしていると思う」


「頼む」


「シルバさんには話したか」


「話してきた」


「そうか」


 ミアは先を急いだ。



 夜、経営の書を開いた。


「積み上がったものを数えることは、現在地を知ることだ。だが積み上がったものが何を示しているかを問うことが、次の一手につながる」


(十本。誰かが三日ほどの間隔でここへ来ている。いつかは会う。その時に何を聞くか、今夜考えておく)


 棚を見た。通常品が三百六本。混合品が二十四本。


 明日も採りに行く。

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