第55話:傾く床
種蒔きから百六日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。第一耕地で二本。第三耕地に回ると、十七回目のグループが収穫できる大きさになっていた。五本を摘み取った。三か所に水をかけた。
奥の壁際へ向かった。
*
割れ目の前に立った。一歩入った。十八歩進んで向こう側に出た。
刻みを確かめた。九本のままだった。器の向きも変わっていなかった。
棚の前に立って、奥の開口部を見た。
(今日は入る)
松明を一本出した。火をつけた。
開口部の縁に立った。中は暗かった。松明を向けた。壁が両脇から狭くなっていた。床は平らな岩盤だった。苔はなかった。光もなかった。
一歩入った。壁が迫ってきた。大人一人がちょうど通れる幅だった。
二歩目。床が下へ傾き始めた。はっきりとした傾きだった。
三歩目。通路が続いていた。松明の光が届く先まで、同じ形だった。
四歩目。通路が右へわずかに曲がっていた。その先も暗かった。
五歩目。足元の岩盤が少し湿り気を帯びていた。
(水場より下に来ている)
六歩目。壁に手を当てた。さっきまでとは感触が違った。硬い岩盤に、土が混じっているような、ざらついた感触だった。
七歩目を踏もうとして、止まった。
松明を前に向けた。通路はまだ続いていた。暗がりの先に何かが見えるわけではなかった。音もなかった。ただ、先がある、という感覚があった。
(今日はここまでだ)
引き返した。
*
部屋に戻って刻みを一度確かめた。九本のままだった。
割れ目を抜けて大空洞に出た。
スケイルリザードが割れ目の外で待っていた。
(また来ていた)
赤い目がこちらを見ていた。松明の光の中で光っていた。動かなかった。何かを言うわけでもなく、ただそこにいた。
しばらく見ていた。スケイルリザードは一度だけ体を動かして、ゆっくりと大空洞の奥へ歩いていった。姿が暗がりに消えた。
(何を見ていたのか)
*
小屋に戻って乾燥台に十本を並べた。炭に火をつけた。霧花草を加えた。
乾燥を待ちながら、今日のことを整理した。
七歩目まで入った。床が傾いていた。六歩目のあたりで壁の感触が変わった。岩盤に土が混じっているような感触だった。足元も湿っていた。スケイルリザードがまた来ていた。
(この先に何かある)
一時間ほどで通常品の十本が仕上がった。混合品の一本も仕上がった。棚に並べた。通常品が二百五十六本になった。混合品が二十三本になった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「奥の開口部に入った。七歩目まで」
シルバは手を止めた。
「どうだった」
「床が傾いていた。下へ向かっていた。六歩目のあたりで壁の感触が変わった。岩盤に土が混じっているような感触だった。足元も湿っていた」
「光は」
「なかった。苔もなかった」
「音は」
「なかった」
シルバはしばらく黙っていた。炉の方を向いていた。
「七歩の間に、匂いは気づいたか」
思い返した。
「土の匂いがありました。外の土とは違う。湿った、重い匂いだった」
「そうか」
シルバはそれ以上聞かなかった。
「次に入る時は、松明を余分に持て。二本は必ずだ」
「わかりました」
「今日のところはそれだけだ。慌てるな」
帰り際、シルバが言った。
「……その先に何があるかは、お前が確かめることになる。今は急ぐな」
*
夜、経営の書を開いた。
「下へ向かう道は、上を見るより先が見えにくい。だからこそ、一歩ずつ確かめることが必要になる。確かめた分だけ、道は続く」
(傾く床。先がある。いつか、確かめる)
棚を見た。通常品が二百五十六本。混合品が二十三本。
明日も採りに行く。




