第53話:九本目
種蒔きから百一日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は今日も変わらなかった。第一耕地で二本。第三耕地に回ると、十六回目のグループが収穫できる大きさになっていた。指で押すと弾き返した。五本を摘み取った。三か所に水をかけた。
水やりを終えてから、奥の壁際へ向かった。
*
割れ目の前に立った。温かい風が内側から来ていた。
一歩入った。六歩目あたりの壁の苔が青白く光り始めた。十八歩進んで入口の縁に立ち、向こう側に踏み出した。
苔の光が壁一面に満ちていた。天井の近くも同じだった。松明は必要なかった。
棚の横の壁に近づいた。指先で刻みをなぞった。
一本。二本。三本。四本。区切り。六本。七本。八本——。
(もう一本)
九本目があった。
八本目の隣に、新しい線が一本あった。深さは他の刻みと変わらなかった。表面だけが荒かった。最近刻まれたものだった。
(前は八本だった。十日前も八本だった。その間に来た)
棚の器を確かめた。向きは変わっていなかった。ひびも増えていなかった。草の残骸もそのままだった。
奥の開口部に目をやった。暗かった。今日は入らなかった。
刻みをもう一度なぞった。一から九まで。九本目は確かに新しかった。
(誰かが来ている。俺がいない間に来る)
部屋を出た。
*
大空洞に戻った。水場の前で立ち止まり、手で水を掬った。ほんのりとした温かさが掌に残った。
スケイルリザードの姿はなかった。
入口を出ると、外は薄曇りだった。山道を下りながら、刻みのことを考えた。
(七本を見つけた時から、誰かがいた。その誰かがまだいる)
*
小屋に戻って乾燥台に十本を並べた。炭に火をつけた。霧花草を一束加えた。
乾燥を待つ間、棚を整えた。今日の十本が仕上がれば、通常品は二百十六本になる計算だった。
一時間ほどで通常品の十本が仕上がった。混合品の一本も仕上がった。棚に並べた。数えた。通常品が二百十六本になった。混合品が二十一本になった。
*
夕方、ミアが来た。
扉を叩いてから入ってきた。
「今日のポーションは仕上がったか」
「全部仕上がった」
ミアは棚を一度見た。通常品の棚で視線が止まった。
「増えているな」
「五日分だ。月末から」
「そうか」
ミアは丸太に腰を下ろした。
棚を整えながら言った。
「先月の月末のことだが。シルバじいさんに聞かれた。なぜポーションを作っているかと」
ミアの視線がこちらに向いた。
「なんと答えた」
「ないよりあった方がいい、と」
「シルバさんはなんと言った」
「それで十分だ、と。それから——教会のことは俺が考える、と」
少し間があった。ミアは足先で地面を踏んだ。
「シルバさんが動くということか」
「そこまではわからない。今のことを続けろ、とも言っていた」
「そうか」
ミアは立ち上がった。
「師匠も気にしている。ゴルドが自分から口を開く時は、そういう時だ。師匠の言い方が違ったと俺は言った。それは今も変わらない」
「わかった」
ミアは扉を開ける前に立ち止まった。
「割れ目の刻みはどうだった」
「九本になっていた」
少し間があった。振り向かなかった。
「前は八本だったか」
「十日前は八本だった。その間に一本増えた」
「そうか」
扉が閉まった。
*
シルバの小屋へ向かった。夕暮れが近かった。
「刻みが九本になっていた。前に確認してから十日の間に、誰かが来たことになります」
シルバはすぐには答えなかった。炉の前に手を当てて、しばらくそのままでいた。
「器の向きは」
「変わっていなかった。草の残骸も位置も同じだった」
「そうか。続けて確認してくれ」
「はい」
立ち上がろうとした時、シルバが言った。
「一つだけ聞いておく。刻みを刻んでいる者が、お前の前に現れた時、どうするつもりだ」
「話しかけてみます。逃がすよりも」
シルバは何も言わなかった。反論もしなかった。しばらくしてから言った。
「ゆっくりやれ。急ぐことはない」
*
夜、経営の書を開いた。
「動いているものが見えなくても、それは止まっているということではない。見えない間も、積み上げたものは積み上がっている」
(九本。誰かがまだここに来ている。それは確かなことだ)
棚を見た。通常品が二百十六本。混合品が二十一本。
明日も採りに行く。




