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第52話:三百七十五枚

 種蒔きから九十六日目の朝、採取を済ませてから小屋に戻った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。第一耕地で二本。第三耕地に回ると、十五回目のグループが収穫できる大きさになっていた。五本を摘み取った。三か所に水をかけた。今日は割れ目には入らなかった。月末だった。



 小屋に戻って乾燥台に十本を並べた。炭に火をつけた。


 通常品を十本、混合品を一本仕上げた。棚の前に立って数えた。通常品が三百三十一本になった。混合品が二十本になった。


(百五十本を移す。それが今日の仕事だ)


 木箱を二つ並べた。それぞれに仕切りを入れてある。七十五本ずつ入るように作ったものだった。棚から通常品を一本ずつ移した。七十五本、また七十五本。百五十本を二つの箱に分けた。


 数えた。正しかった。



 昼前に、セイロスが来た。


 一人だった。いつも一人で来た。荷馬を木につないで、小屋の中に入ってきた。


「三ヶ月目だ」


「ええ。三ヶ月目です」


 セイロスは棚を見た。それから木箱を見た。


「先に用意してある」


「そうか」


 棚から一本取り出して光にかざした。薄い緑色。わずかに輝く。


「色は変わっていない」


「ミストハーブは同じ場所で採取しています。耕地の収穫も安定しています」


「百五十本、用意できているか」


「木箱に移してあります」


 セイロスは一箱目を開けて一本ずつ確認した。二箱目も同じように確認した。慣れた手つきだった。数え終えてからうなずいた。


「受け取った。三百七十五枚だ」


 革の袋を差し出された。重かった。今まで一度に受け取った中で一番重かった。


 受け取って、机の上に置いた。


(三百七十五枚)


「ありがとうございます」


「礼はいらない。数字が揃った、それだけのことだ」


 セイロスは混合品の棚に目を向けた。


「右の棚は変わらないのか」


「混合品です。今月は二十本になりました」


「ゴルドの膝の話は続いているか」


「継続して良くなっています。ミアから定期的に報告が来ています」


「そうか」


 少し間があった。セイロスが向き直った。


「一つ報告がある」


(また教会の話か)


「先月、俺の倉庫を教会の者が訪ねてきた。正確には、教会の服を着た者だった。ポーションの仕入れ先を聞かれた」


「倉庫に直接、ですか」


「ああ。答えなかった。ただ、倉庫まで来たということは、問屋を回る段階から一歩進んだということだ。仕入れ先を直接特定しようとしている」


(倉庫まで来た)


「セイロスさんが答えなかったとして、他の誰かが話す可能性はありますか」


「ある。俺からポーションを買っている者の中に、口の軽い者もいる。エクラで話が広まっている以上、遅かれ早かれ場所は特定される」


 セイロスは棚の並びを一度見てから、こちらに向き直った。


「今すぐ何かするとは思わない。ただ、準備の段階はとっくに終わっている。相手は情報を集めた上で次を決める。こちらも信用のある人間を増やしておくことだ」


(信用のある人間を増やしておけ)


「ドゥルガさんはご存知ですか」


「話している。あの男は長く商いをしている。見えている」


 セイロスは木箱を二つ持った。馬の鞍に括り付けた。


「来月も同じ条件で来る。百五十本、頼む」


「必ず揃えます」


 セイロスは馬を引いて山道を下りていった。後ろ姿が木の影に消えた。



 小屋の中に戻った。机の上の革袋を手に取った。


(三百七十五枚)


 棚を見た。通常品が百八十一本残っていた。混合品が二十本。引き渡した百五十本の場所が空いていた。


 窓から外を見た。山道にはもう誰もいなかった。


(信用のある人間を増やしておけ。今俺が信用を持っているのは、ドゥルガさんとシルバじいさんとミアとゴルドとセイロスさんだ)


 指で数えた。五人だった。



 夕方、シルバの小屋へ向かった。


「三百七十五枚、受け取りました」


「そうか」


「セイロスさんから教会の話が続いてありました。倉庫に教会の者が直接来たそうです。仕入れ先を聞かれた、と」


 シルバは動かなかった。顔の表情も変わらなかった。しかし何かを聞いているときの目だった。


「セイロスさんは答えなかった、と言っていました。ただ、場所が特定されるのは時間の問題かもしれないとも」


「……そうか」


「信用のある人間を増やしておけ、と言われました」


 シルバは立ち上がった。窓の方を向いた。しばらくそのままだった。


「一つ聞くが、お前はなぜポーションを作っている」


 急な問いだった。


「ないよりあった方がいい、と思ったからです」


 シルバは振り向かなかった。


「それだけか」


「……はい。それだけです」


 少し間があった。


「そうか。……それで十分だ」


 シルバは座り直した。炉の前に手を当てた。


「教会のことは、俺が考える。お前は今のことを続けろ」


(シルバが「俺が考える」と言った)


「わかりました」


 帰り道、空はもう暗かった。タルン村に明かりが灯っていた。



 夜、経営の書を開いた。


「大きなものが近づいた時、慌てて動く者は足元を見失う。今やることは、今のことだ。積み上げてきたものが、やがて力になる」


(積み上げてきた。少しずつ、確かに)


 棚を見た。通常品が百八十一本。混合品が二十本。


 明日も採りに行く。

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