第51話:月末の前に
種蒔きから九十一日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。第一耕地で二本。第三耕地に回ると、十四回目のグループが収穫できる大きさになっていた。五本を摘み取った。三か所に水をかけてから、奥の壁際へ歩いた。
今日で三回目の確認になる。
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割れ目の前に立った。今日も風が来ていた。一歩入った。十八歩進んで入口の縁に立った。一歩踏み出した。向こう側に出た。
棚の横の壁に近づいた。手を伸ばして刻みをなぞった。
一本。二本。三本。四本。区切り。六本。七本。八本。
終わりだった。
(変わっていない。九本になっていない)
少し間があった。
器を見た。位置も向きも変わらなかった。
奥の開口部には今日は入らなかった。採取があった。月末が近かった。
(変わらなかった、というのも一つの事実だ)
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大空洞に引き返した。スケイルリザードはいなかった。
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小屋に戻って乾燥台に十本を並べた。採取ポイントの三本、第一耕地の二本、第三耕地の五本だった。炭に火をつけた。
通常品を十本、混合品を一本仕上げた。棚に並べた。通常品が二百九十六本になった。混合品が十九本になった。
(月末まで五日。百五十本は余裕がある)
左の棚の通常品を眺めた。先月まで百本引き渡しだったのが、今月から百五十本になった。木箱を一つ余分に用意してある。
*
昼過ぎ、ミアが来た。
扉を叩く音がして、返事する前に開いた。ミアの入り方はいつもそうだった。
「月末は来週か」
「五日後だ」
ミアは棚を一度見た。視線が通常品の棚で止まった。
「百五十本、揃うな」
「揃う。余裕がある」
ミアは小屋の端にあった丸太に腰を下ろした。
「師匠から話があった」
ゴルドのことだった。
「膝のことではない。別の話だ」
「何だ」
「最近、エクラから来た鍛冶師と話す機会があった、と。そいつがポーションのことを言っていたらしい」
「どんな話だ」
「エクラで評判のポーションがある、出どころが山の奥の小屋だ、と。それだけなら珍しくない。ただ、教会の者が問い合わせに来た問屋もあると聞いた、と師匠が言っていた」
(また教会の話だ)
「セイロスさんから聞いた話と同じだ」
「そうな」
ミアは足先で地面を踏んだ。
「師匠が、教会は厄介だと言っていた。理由は話さなかった。ただ言い方が、俺が今まで聞いた師匠の言い方と違った」
(ゴルドが「厄介」と言った)
ゴルドが言葉で感情を出すことは少なかった。「厄介」という一言がどれほどの意味を持つか、それはミアが一番わかっているはずだった。
「師匠は他に何か言ったか」
「それだけだ。ただ——」
ミアは少し間を置いた。
「師匠が、自分からここの話をしたのは今日が初めてだった。いつもは俺が話して、師匠が聞く側だった」
(ゴルドが自分から話した)
「わかった。ありがとう」
ミアは立ち上がった。
「棚の数、正確に管理しておけ。セイロスは数字を見る人間だ」
「してある」
「ならいい」
扉が開いて、ミアは出ていった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「刻みは八本のままだった。変わっていなかった」
シルバはうなずいた。
「ゴルドが教会の話をしていた、とミアが来て教えてくれた。エクラから来た鍛冶師経由の話だ」
シルバは少し間を置いた。
「そうか」
「ゴルドが自分から話したのは初めてだったと、ミアが言っていた」
「ゴルドはそういう男だ」
炉の火が揺れた。シルバはしばらく黙っていた。
「月末の準備は整っている。百五十本は揃う」
「そうか。……ゆっくりやれ。急ぐことはない」
(シルバはゴルドのことを知っている。どのくらい知っているのか)
*
夜、経営の書を開いた。
「先が見えた時に慌てる者は、見えていなかった頃より多くを失う。先が見えた時こそ、今の一歩を丁寧に踏むことだ」
(教会が動いている。ゴルドも気にしていた。今は月末の準備だ)
棚を見た。通常品が二百九十六本。混合品が十九本。
明日も採りに行く。




