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第50話:八本目

 種蒔きから八十六日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い光が、今朝は少し強い気がした。気のせいかもしれなかった。第一耕地で二本。第三耕地に回ると、十三回目のグループが収穫できる大きさになっていた。五本を摘み取った。茎の弾力は変わらなかった。三か所に水をかけてから、奥の壁際へ向かった。


(今日は刻みを確かめる)



 割れ目の前に立った。今日も中から風が来ていた。どこから来ているのか、まだわからなかった。


 一歩入った。十八歩進んで入口の縁に立った。一歩踏み出した。向こう側に出た。


 中は変わらなかった。青白い光が壁から染み出し、天井の低い空間を満たしていた。静かで動かない光だった。


 器は棚の上にあった。位置も向きも前回と変わらなかった。


 棚の横の壁に近づいた。手を伸ばして、縦の刻みをなぞった。


 一本。二本。三本。四本。横棒が通してある。五本で一区切り。六本。七本。


 八本。


(八本だ)


 前回は七本だった。一本増えていた。


 もう一度最初からなぞった。最初の七本は、表面が滑らかだった。長い時間をかけて磨かれたような滑らかさだった。だが八本目は違った。指先に引っかかるような感触があった。他の七本より表面が荒く、岩の粉がわずかに残っているようだった。


(最近刻まれた。誰かがまだここに来ている)


 壁の前でしばらく立っていた。


 器を見た。位置も向きも前回と変わらなかった。刻みだけが一本増えていた。誰かがここに来て、一本刻んで、器はそのままにして帰った。


(いつ来たのか。何のために来ているのか)


 答えはなかった。ただ事実だけがあった。


 奥の開口部に目を向けた。前回と同じ暗がりだった。


 今日は少しだけ入ってみることにした。



 開口部を抜けた先は光がなかった。苔もなかった。


 松明を持ち上げて一歩入った。壁が少し狭くなった。二歩目を踏んだ。床がわずかに傾いていた。下へ続いていた。足の裏で感じるくらいの傾きだった。先は暗くて松明の光が届かなかった。


 三歩目を踏まなかった。今日はここまでにした。引き返した。


 部屋に戻ると、青白い光の中に器と棚と刻みがあった。


(奥に何かある。まだわからないが)


 大空洞に引き返した。


 割れ目の外に出ると、スケイルリザードがいた。壁際に体を低くして止まっていた。赤い目でこちらを見ていた。しばらく見合った。スケイルリザードは動かなかった。


(また来ていた)



 小屋に戻って乾燥台に十本を並べた。採取ポイントの三本、第一耕地の二本、第三耕地の五本だった。炭に火をつけた。


 待つ間に霧花草の準備をした。今日も一本分の量が揃っていた。通常品を十本、混合品を一本仕上げた。棚に並べた。通常品が二百六十一本になった。混合品が十八本になった。


(月末まで十日ある。百五十本は足りる)



 夕方、シルバの小屋へ向かった。


 扉を叩くと、すぐに返事があった。中に入ると、シルバは炉の前に座って古い書物の頁を繰っていた。顔を上げた。


「刻みが八本になっていた」


 シルバの手が止まった。


「八本か」


「ああ。最初の七本は古かった。八本目だけ他より表面が荒かった。最近刻まれた」


「器は」


「変わっていない。位置も向きも同じだった」


「奥には入ったか」


「二歩だけ。床が下へ傾いていた。それ以上は入らなかった」


 シルバは書物を閉じた。しばらく黙っていた。立ち上がって、窓のない壁を一度見た。それから戻ってきて、口を開きかけた。


「お前が部屋を使っていることは——」


 止まった。


「……なんでもない。変化があればすぐに知らせてくれ。器の向きが変わった時は特に」


(何かを知っている)


 そうは言わなかった。聞かなかった。


「わかった」


 扉を開けて外に出た。夕暮れの風が頬に当たった。



 夜、経営の書を開いた。


「誰かが残したものには意図がある。意図を読もうとしない者は、必ずどこかで取り違える。急がず、確かめながら進め」


 八本目の刻みを思い出した。他の七本より荒い、新しい跡。


(誰かがまだ来ている)


 棚を見た。通常品が二百六十一本。混合品が十八本。


 明日も採りに行く。

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