第41話:八歩の先
種蒔きから七十日目の朝、いつもより早く小屋を出た。
松明を四本持って大空洞に入った。前より一本多く持ってきた。今日は割れ目の奥をもう少し確かめるつもりだったから。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い光が今朝も安定していた。第一耕地では二本が収穫できる大きさになっていた。三か所に水をかけた。
大空洞の奥の壁際まで歩いた。
*
割れ目の前に立った。今日も中から風が来ていた。水場と変わらない湿り気のある温かさだった。
松明を中へ向けて、一歩入った。前回の七歩目まで止まらず進んだ。今日はここから先だった。
八歩目。
壁の苔に目が向いた。前回見た時、青白く光っている部分は一か所だけだった。今日は三か所ほどが同じ色で光っていた。松明を近づけた。光は消えなかった。苔自体が光っている。外から差し込む光ではなかった。
(広がっている)
九歩目を踏んだ。
通路がさらに緩く曲がっていた。曲がりの先は暗くて見えなかった。奥からの風がここまで来ると少し強く感じた。松明の炎がわずかに揺れた。
奥を見た。まだ暗かった。ただ、かすかな光が前回よりはっきりしていた。形のある光ではなかった。ただ何かがある、という気配が、確かに前回より近かった。
(もう少し先だ)
十歩目へ踏み出そうとした。足が止まった。
急いで確かめることより、今見えたものを正確に覚えておく方が先だという感覚があった。言葉にはならなかった。
引き返した。九歩、八歩、七歩。割れ目の入口の光が大きくなった。大空洞の空気に戻ると広く感じた。
スケイルリザードは今日も来なかった。
*
小屋に戻って乾燥台に五本を並べた。採取ポイントの三本と第一耕地の二本だった。炭に火をつけた。
待つ間に作業台を片づけた。霧花草が昨日採ってきた分、残っていた。乾燥が終わる頃に混合品の分を一本分まとめて煎じた。
通常品を五本、混合品を一本仕上げた。棚に並べた。通常品が八十六本になった。混合品が十本になった。
(積み上がっている)
月末まで半月ほどある。今のままで積んでいけば間に合う。
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昼を過ぎてからミアが来た。手の甲に薄い煤がついていた。
「師匠の膝の話だ」ミアは入ってくるなり言った。
「はい」
「先週、三日続けて雨が降った。それでも重くならなかった」
三日続けて、と思った。以前は雨が来る前から重くなっていたと聞いていた。
「本人はまだ口にしない」ミアが続けた。「ただ、雨が降るたびに膝を確かめる癖がなくなった。気にしなくなったということだ」
「そうですね」
ミアは棚を一度見た。「数は」
「通常品が八十六本です。月末まで問題なく揃えられます」
「混合品は」
「十本になりました」
ミアは少し棚の右の列を見ていた。「セイロスに話す頃か」
「もう少し先にします。もう一度、量の安定を確かめてから」
「それでいい」ミアは来た時と同じ速さで出ていった。
*
夕方、小屋の戸を閉めてから経営の書を開いた。
「確かめることには順序がある。今目の前にあるものを丁寧に確かめた者だけが、次に見えるものの価値を正しく測ることができる。先を急ぐことと、先を見通すことは、似ているようで違う」
割れ目のことを頭の中で繰り返した。苔の光が三か所に広がっていた。奥の光が前回より近かった。
(急がなくていい。今見えたことを覚えておく)
棚を見た。通常品が八十六本。混合品が十本。
明日も採りに行く。




