表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/43

第38話:積み直しの朝

 月末の翌朝、大空洞に入った。


 昨日と変わらない湿った空気が奥から流れてきた。松明を掲げながら採取ポイントへ向かった。岩の裂け目に三本が育っていた。根元の土を指でほぐしてから一本ずつ摘み取った。


 第一耕地に回った。今朝は二本が収穫できる大きさになっていた。第三耕地は次のグループが育ち途中で、あと五日はかかりそうだった。三か所に水をかけてから出口へ向かった。


 小屋に戻って乾燥台に五本を並べた。炭に火をつけた。弱火が安定するまで少し待ってから、炭台の距離を調整した。


 待つ間に棚を確かめた。通常品が二十三本。混合品が八本。昨日まで百二十三本並んでいた左の列が、今日はこの数字から始まる。セイロスが木箱に百本を入れて山を下りていった後の棚は、まだ少し広く見えた。


 乾燥が終わった。通常品を五本、混合品を一本仕上げた。棚に並べると通常品が二十八本、混合品が九本になった。


(また積んでいく)



 昼の前に小屋の中を整えた。棚の下の段に銅貨の袋を移した。ドゥルガへの仲立ち料——百本分で銅貨千枚になる。次に来た時に渡す分だった。


 銀貨を革袋に入れてから数えた。セイロスから受け取った二百五十枚のうち、仲立ち料の銀貨十枚分相当を差し引くと、今月の実収は二百四十枚だった。今まで一度にこれほどの額を持ったことはなかった。


(多い)


 ただそれだけ思った。次にしなければならないことが続けて来た。来月も百本揃える。セイロスが月末に来る。今月やったことを繰り返せばいい。変わることは何もない。


 革袋を棚の下に収めた。



 午後になって、ミアが小屋に来た。鍛冶場から来たらしく、手の甲に薄い煤がついていた。


「来月の取引はいつだ」


「月末です。今月と同じ条件で来ます」


 ミアは棚を一度見た。「今の数は」


「通常品が二十八本です。月末まで日数がありますから、百本は問題なく揃います」


 ミアは少し黙った。棚の薄緑の列をしばらく見ていた。


「ゴルドの膝はどうですか」


「先週の雨の日に、重くならなかったと言っていた」少し間があった。「三回目だ」


「改善していますね」


「本人はまだ認めたがらない」ミアは窓の外に目を向けた。「混合品の在庫は」


「九本あります。まだ生産数が安定していないので、セイロスへの提案は来月以降にしようと思っています」


「それでいい」ミアはそう言って、来た時と同じ速さで出ていった。



 夕方に村に下りた。シルバじいさんの小屋に寄った。


「布の切れ端はありますか。松明の芯にしたいのですが」


 じいさんは棚の奥から古い布をひとつかみ取り出した。使い古しの麻布だったが、油を染み込ませるには十分な厚みがあった。


「ある。山道の枝で芯を作るなら三本は作れる」


「ありがとうございます。油はうちにあります」


 受け取った。じいさんは布袋を棚に戻しながら言った。


「月末の取引はうまくいったか」


「はい。百本引き渡しました。銀貨二百五十枚です」


「ドゥルガへの仲立ち料は」


「次に来た時に渡します。銅貨で千枚、用意してあります」


 じいさんはゆっくりとうなずいた。「一度目が終わった。今月が二度目の始まりだ。同じように積み上げていけばいい」


「はい」


 帰り際にじいさんがもう一言添えた。


「松明を増やすのはなぜだ」


 少し考えてから答えた。「奥まで確かめたい場所があります。採取に時間がかかりそうなので」


 じいさんは何も言わなかった。しばらく棚の方を向いたまま、動かなかった。


「……急がなくていい。今のやり方で進めていけばいい」


「わかりました」


 小屋を出ると、日が山の向こうに傾いていた。



 翌朝、山道を歩きながら細い枝を六本拾った。


 小屋に戻って布を芯に巻いた。油を染み込ませて、乾くまで作業台の端に並べた。半日後に棚の下の箱へ入れた。今まであった四本と合わせて七本になった。


 午後に大空洞に入った。採取と水やりを済ませてから、大空洞の奥の壁際まで歩いた。割れ目の前に立った。今日も中から風が流れてきた。湿り気のある、水場と同じ温かさだった。


(もう少しだ)


 今日は入らなかった。引き返した。


 小屋に戻って経営の書を開いた。


「約束の後に動く者と、約束が終わったと思う者がいる。商いが続くのは、前者だけだ」


 棚を見た。通常品が二十八本。混合品が九本。


 明日も採りに行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ