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第29話:ハルトじいさんへの一本

 翌朝、大空洞の第三耕地を確かめた。


 昨夜から一本増えて、十本になっていた。種を蒔いてから十一日。第一耕地の最初の発芽は七日で三本から始まった。こちらは五本、七本、九本、そして今朝で十本。日を追うごとに少しずつ顔を出している。


 光の筋が一本、第三耕地の中央を横切るように落ちていた。その筋の真下から出た芽が一番太く立っている。光が当たる時間が長いほど成長が早い、ということかもしれない。


 第一耕地の追加の三粒は、今日は三粒とも芽が出ていた。最初の二粒は茎が指の長さほどになっていた。第二耕地の霧花草は葉が十枚を超えていた。


 三か所を確かめて水をかけた。採取ポイントに寄って三本採り、霧花草の葉を六枚採って小屋へ戻った。



 乾燥台に今朝の分を並べた。炭に火をつけた。弱火が立ち上がるまでの間に、昨日仕上げた在庫を確かめた。通常品が十一本、混合品が四本。ハルトじいさんへ一本持っていく約束がまだ残っていた。昨日は夕方に村道で何人かが集まっていたので後回しにしていた。


 今日の朝のうちに持っていこうと思った。


 乾燥が終わった。三本仕上げた。通常品が十四本になった。ハルトじいさんへ一本渡しても十三本残る。次のドゥルガが来るまでに、もう少し積み上げることができる。



 ハルトじいさんの家は村の外れにある。畑が前に広がって、納屋が横についている。扉を叩くと、じいさんが縁台に腰を下ろしたまま顔を上げた。腰をかばうような動きで立ち上がろうとしたので、レインはそのままで構わないと伝えた。


「来てくれたか。こっちから取りに行こうと思っていた」


「持ってきました」レインは小瓶を一本取り出した。薄い緑色の小瓶が、昼の光をわずかに帯びていた。「腰の古傷に、少量を塗り込んでみてください。使った後、変化があれば教えてもらえると助かります」


「記録でも取っているのか」


「いつ使って、その後どう変わったかを順に話せるようにしておきたいので」


「なるほどな」ハルトじいさんは小瓶を受け取った。光にかざして薄緑の色を確かめるように見た。「ゴルドがこれを試したという話を聞いた。あの鍛冶師の膝は有名でな。俺たちくらいの歳になると誰でも知っている。それが変わったという話は本当か」


「何日かにわたって、変化があったとミアから聞いています。最初に試した日から今まで、続いています」


「そうか」じいさんは少し顎を引いた。「俺の腰も古傷だ。若い頃に荷を無理に持ち上げた時の傷で、それ以来ずっとだ。動けなくはないが、雨の前の日は必ずうずく。今年は特に、朝起きた時がつらい」


「教えてもらえると助かります。変わったことがあれば、いつ使ったかを覚えておいてもらえますか」


「わかった。値段は同じか」


「銀貨二枚です」


 じいさんは財布を出して銀貨二枚を手渡した。小瓶を手のひらに包んで、遠くを見るように庭の方を向いた。


「昔は力仕事でこの村に来る者もいたんだがな」とじいさんは言った。「街道を歩く商人や、ダンジョンに入る者が資材を求めて立ち寄ったりしていた。今は静かになった」


「タルン村は昔、通り道だったと聞いたことがあります」


「そうだ。ロウン街道の中継として、もう少し活気があった。いつからか、霧穴に近づかない方がいいという話が広まってな。そうなると寄り道する者がいなくなる」


「誰がそんな話を広めたんでしょう」


 じいさんは少し間を置いた。「そこまではわからない。俺が若い頃にはもうそういう話があった。気がついたら人が来なくなっていた」


 それだけ言って、じいさんは小瓶を胸元にしまった。「効いたらまた頼む」


 レインは礼を言って家を離れた。



 村道を歩きながら、ハルトじいさんの言葉を頭の中で繰り返した。霧穴に近づかない方がいいという話が広まった。誰が広めたかは誰も知らない。じいさんが若い頃——数十年前から、その話はあった。


 タルン村がかつてにぎやかだったことは、ドゥルガも言っていた。シルバじいさんも「昔は商人が通っていた」と話したことがある。でも誰も、それがいつからなぜそうなったのかを知らない。


 シルバじいさんに話してみようと思った。



 午後、じいさんの小屋を訪ねた。


「ハルトじいさんへポーションを届けてきました。腰の古傷に使う予定です」


「そうか。村の者が求めてくれれば、それは積み重なる」


「それと——ハルトじいさんと少し話しました。霧穴に近づかない方がいいという噂のことを」


 じいさんの視線が少し変わった。「ハルトがそんな話をしたか」


「じいさんが若い頃から噂はあったと言っていました。誰が広めたかはわからないと。タルン村が以前よりにぎやかだったのは確かなようで、その後静かになったのも知っている人が多いようです」


 シルバじいさんは少し黙った。「そういう話はある」とだけ言った。口を一度開きかけて、閉じた。「昔はもう少し人が来ていた。なぜそうなったかは、わからないことが多い」


 何かを言いかけているような間があった。でもじいさんはそれ以上話さなかった。


「気になるのは自然なことだ」とじいさんは言った。「ただし今すぐわかることではないかもしれない。時間をかけて積み重ねていくうちにわかってくるものもある」


 レインはその言葉を受け取ってうなずいた。



 小屋に戻って経営の書を開いた。帰り道で気の向くまま何ページかめくった。あるページで手が止まった。


「場所には記憶がある。人が去っても、記憶は土に残る。土を耕す者は、やがてその記憶に触れる」


 しばらくその一節を見た。


 霧穴の土を毎日耕している。大空洞の耕地に水をかけている。その土が何を覚えているのかは、まだわからない。でも、何かがある場所だということは、少しずつ感じている。


 棚を見た。通常品が十三本。混合品が四本。


 炭の残りを確かめた。


 明日も採りに行く。

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