第30話:ドゥルガが来た日
ドゥルガが来たのは昼前だった。
その日の朝は霧が薄かった。大空洞の第三耕地は十三本になっていた。種蒔きから十四日。発芽の本数は少しずつ増えているが、ここ数日は一日に一本から二本の増え方になっていた。一気に増える段階から、安定する段階に入りつつあるのかもしれない。
採取ポイントでミストハーブを三本採り、霧花草を六枚採って小屋に戻った。乾燥台に並べて炭に火をつけた。待つ間に棚を眺めた。通常品が十三本。今日の三本が仕上がれば十六本になる。
乾燥が終わって三本を仕上げたところで、山道の下から荷台の音が聞こえてきた。
*
ドゥルガが息を整えながら小屋の前に来た。日焼けした顔の白い髭に汗が混じっていた。「今月は早めになった。荷の都合があってな」
「ちょうど良かったです。用意があります」
棚から通常品を十本取り出した。薄い緑の小瓶が、窓から差し込む光をわずかに帯びた。ドゥルガは一本ずつ丁寧に手に取り、光にかざして確かめた。前回と変わらず一通り確かめてから、銀貨を出した。
「二十枚。今月も同じだ」
「ありがとうございます」
ドゥルガは荷台の縁に腰を下ろした。水を一口飲んでから言った。「今日は伝えることがある」
「どうぞ」
「セイロスが来る。五日後だ。荷の都合を合わせた。エクラから来るのに半日かかると思うが、朝早く出れば昼前には着ける。この小屋まで来るつもりだと言っていた」
五日後。レインはその日数を頭に置いた。
「霧穴の入口まで案内することはできますか」
「そう伝えてある。商品がどういう場所から来るのかを自分の目で確かめる人間だ。案内するつもりでいれば良い」
「準備します」
ドゥルガはしばらく沈黙した。山の風が小屋の壁を一度揺らした。
「エクラの方では、ポーションの話がずいぶん広まっている」とドゥルガは言った。「わしも驚いたほどだ。あの荷運びのカルトが何人かに話したのが最初だったらしいが、それが商人の間を伝わって、今では知らない者の方が少ない」
「ゴルドさんの名前も届いていますか」
「ああ。エクラで鍛冶の仕事をしていた者はゴルドの名を知っている。そのゴルドが試したという話は、信用になる。値段が相場より少し低いことも噂になっている」
レインは少し考えた。値段の話が広まっているということは、エクラ市のポーションの相場と比べられているということだ。品質が同じなら安い方が買われる。でもセイロスのような商人は品質を自分で確かめてから判断する。今は焦らなくていい。
「もう一つ、余計な話かもしれないが聞いてくれるか」
「どうぞ」
「聖ヴォルン教会の方で、ポーションの話が入ったらしい」
レインは少し間を置いた。「教会、ですか」
「ハナ王国に広まっている大きな組織だ。病人を癒す仕事をしているとか、冒険者の組合の後ろ盾をしているとか——いろいろと手を広げている。エクラにも支所がある」ドゥルガは水をもう一口飲んだ。「そこの者が、ポーションの話に耳を止めたらしい。どう気にしているかまでは、わしにもわからない」
「それは……気をつけた方が良いということですか」
「今すぐ何かというわけではない。ただ知らないでいるよりは知っていた方が良いと思って話した」ドゥルガは立ち上がった。「今はセイロスとの話を先にやれ。順番というものがある」
「わかりました」
「ゴルドの膝の件、話の準備はできているか」
「はい。いつ、誰が、どんな傷に使って、その後どう変わったかを順に話せます」
「そうか」ドゥルガはうなずいた。「セイロスはそういう話し方を好む人間だ。わしが保証する」
荷台を引いて山道を下りていくドゥルガの背中を見送った。
*
教会という名前を聞いたのは初めてではなかった。シルバじいさんが巡礼の話をする時に一度出てきた気がした。でも今日は初めて、自分のポーションと結びついた形で耳に入った。どう気にしているのか、まだわからない。
今はセイロスのことを考える。ドゥルガが言った通り、順番がある。
*
夕方、シルバじいさんの元を訪ねた。
「セイロスさんが五日後に来ます」
じいさんは顎を少し引いた。「決まったか」
「ゴルドさんの話の順番は頭に入っています。ミアにも伝えます。見せる場所は、小屋と霧穴の入口まで案内するつもりです。ドゥルガさんから、霧穴の入口も見たいかもしれないと聞きました」
「そうか」じいさんは少し前に出た。「小屋の棚を整えておけ。商人は置いてあるものの並べ方を見る。どこに何があるかがわかるように並べておくといい」
「通常品と混合品を分けて置いてあります」
「それだけで十分だ。話す内容の方が大事だ。あとは当日、自分の足で案内しながら話すことになる。慌てなくていい」
帰り際、ミアの鍛冶場へ寄った。扉の隙間から炉の光が見えた。
「セイロスが五日後に来る」
ミアは手を止めた。「そうか」
「前に「立ち会うことを考えておく」と言ってくれてたやつ——もし来てもらえるなら、その日にいてほしい」
しばらく間があった。炉の火が静かに揺れた。
「行く」ミアは短く言った。「その日の午前に空けておく」
「ありがとう」
鍛冶場を離れた。夜の山の方向に、霧穴の入口から霧が薄く流れているのが見えた。
五日後。セイロスが来る。




