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第22話:最初の実り

 種を蒔いてから十八日が経った。


 毎朝、大空洞へ向かう。耕地を確かめ、水をかけ、霧花草の葉を採る。それがいつの間にか朝の仕事になっていた。


 今朝は山道を上がりながら、空が晴れているのに気づいた。霧穴の入口付近まで、日の光が届いている。


 採取ポイントでミストハーブを三本採った。根元の青白い光が、今日は外の光に押されてやや弱く見えた。


 大空洞に入ると、天井の隙間から光の筋が強く差し込んでいた。空洞の奥まで見通せる。霧が薄く、床の岩と土の色がはっきり見えた。


 第一耕地に膝をついた。


 ——一粒目の茎が、昨日より太い。


 指の腹でそっと押した。弾き返してきた。昨日も同じだったが、今日は弾き方が違う。しっかりと、確かな力がある。


 二粒目を押した。同じだ。三粒目も。


(今日だ)


 恐る恐る、一本目の茎を根元の少し上から折り取った。茎の断面から青白い汁がにじんだ。折り取った感触が、採取ポイントで採る時と同じだった。


 手の中の茎を見た。青白い光が、弱いけれど確かに輝いている。


 大空洞のミストハーブが、採れた。


 二本目、三本目も折り取った。三本が手の中にある。


 新しい二粒の芽はまだ細い。そちらはそのままにした。霧花草の葉を六枚採って、水場で手を洗った。帰り道、袋の中を何度も確かめた。



 小屋に戻って、栽培物の三本を乾燥台に並べた。採取ポイントで採った三本も一緒に並べる。六本が台の上に整列した。


 炭に火をつけて、弱火を整えた。一時間ほど待てばいい。


 待つ間、経営の書を開いた。今日はどのページかを決めずに、気の向くままに開く。


 開いたページにこんな一節があった。


「小さな始まりを見くびる者は、大きなものを育てる機会を逃す。始まりはいつも小さい。しかし小さな始まりを手放した者は、後に同じ門の前に立ち戻ることになる」


 レインはそのページをしばらく見ていた。


 種を蒔いた日のことを思い出した。半畳ほどの黒い土に、十数粒の黒い小粒を並べた。それだけのことだ。あの日、これが何かになると確信していたわけではなかった。「育てばいい」と思っていたが、「育つかどうか」はわからなかった。


 今日、三本が採れた。


 乾燥が終わって、ミストハーブを刻んで鍋に入れた。水を加えて弱火で煎じた。液体の色が変わり始めると、いつもの土と草の混ざった匂いが上がってくる。


 完成した液体を小瓶に移した。薄い緑色。光を帯びてわずかに輝く。


 採取ポイントのものと、見た目は変わらない。


(同じだ)


 採取ポイントのものも、耕地のものも、同じミストハーブだ。育てた場所が違っても、出来上がったものは同じはずだ。それが今日、確かめられた。


 今日は通常品が六本できた。うち霧花草を加えた混合品は、別に一本仕上げた。



 夕方、シルバじいさんを訪ねた。


「大空洞の耕地から初めて採れました」


 じいさんが椅子から前に出た。「本当か」


「最初の三粒が採取できる大きさになっていました」


「見せてみろ」


 栽培物から作ったポーションを一本持ってきていた。薄緑の小瓶をじいさんの手に渡した。


 じいさんは光にかざした。しばらく黙って見た。


「自生のものと変わらんな」


「見た目は同じです」


「当然だ。土が違っても、ミストハーブはミストハーブだ。育てたものが自生のものと同じ品質になったなら、耕地は成功と言っていい」


「ありがとうございます」


「礼を言うのはまだ早い」じいさんは小瓶を返した。「今日採れたのは三本だ。次の採取が何日後になるか確かめろ。それがわかれば、月に耕地から何本出せるかが読める」


「数を読めれば、次の手が打てる——ということですか」


「そういうことだ。量が読めない商品は値が読めない」


 経営の書の言葉が頭に浮かんだ。「始まりはいつも小さい」。今日の三本は小さい。でも——それが月に何本になるかを読めれば、先が見えてくる。


「じいさん、耕地を増やすとしたら、どのあたりが良いと思いますか。大空洞にはまだ使っていない場所があります」


 じいさんはしばらく考えた。「光が当たる場所と、土が厚い場所が重なっているところだ。今の第一耕地はその二つが揃っていたから育った。ただ——お前より目の利く者が見た方がいい」


「ミアなら、土の感触を読める気がします。大空洞で耕地の土に触れて、何かを感じていました」


「そういうことだ。ミアに意見を聞いてみろ」


 帰り道、夕暮れの山道を下りながら、レインは頭の中で数えた。


 採取ポイントから毎日三本ほど。今日から耕地から三本が加わった。次の採取が四、五日後なら、月に二十本近くが耕地だけで出せるようになるかもしれない。もう一か所耕地を作れば——さらに増える。


 ドゥルガが「全部買う」と言っていた。エクラのセイロスという商人もいる。


 今はまだ急がなくていい。でも、次の手は考えておける。



 鍛冶場の前を通ると灯りがついていた。


「ミア、一つ聞いていい?」


 ミアが顔を上げた。


「今日、耕地から初めてミストハーブが採れた」


「そうか」ミアは少し間を置いた。「よかった」


「耕地を増やしたくて。大空洞で、もう一か所良い場所を探したいんだけど——またついてきてもらえる? 土の感触を見てもらいたくて」


 ミアはしばらく作業の手を止めた。「土の感触を、俺に」


「大空洞の耕地で触れていたときの手つきが、シルバじいさんの言う『目の利く者』に当てはまると思って」


「……わかった」ミアは作業に戻った。「来る。日を決めてくれ」


「ありがとう」


「礼はいい。うまく育ったら、それでいい」


 小屋に戻って棚を眺めた。通常品が六本、混合品が一本。薄い緑と深い緑が並んでいる。


 六本のうち三本は、今日耕地から採ったミストハーブから出来ている。採取ポイントのものと、見た目も匂いも変わらない。


(続けられる)


 そう思えることが、今のところ一番大事なことだった。

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