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第18話:旅人と薬

 ドゥルガが去ってから二日後、ロウン街道の方から男の声が聞こえた。


「小屋がある——」


 声は若かった。


 レインが外へ出ると、山道の中ほどに一人の男が立っていた。年はレインと同じくらいか、少し上だろうか。背に旅荷を背負い、右腕を押さえている。袖が濡れたように黒ずんでいた。


「入ってもいいか。怪我をした」


「どうぞ」


 男は——カルトと名乗った——小屋に入るなり荷物を降ろして腰を下ろした。袖を捲ると、腕の内側に引っかき傷がある。爪ほどの深さだが、血が止まりきっていない。


「山道で岩に引っかけた。タルン村まで行けば薬師がいると聞いたが、ここの方が先だったから」


「村のシルバじいさんに習ってポーションを作っています。使いますか」


 カルトはレインを見た。「お前が作ったのか」


「はい」


 少し間があった。「頼む」



 棚を確かめた。通常のポーションが二本。それから深い緑の一本——試作品だ。


(どちらを使うか)


 カルトの傷は、出血こそあるが深くはない。普通のポーションで問題ない。試作品はまだ実際に使ったことがない。


 ——でも。


 シルバじいさんは「効きが変わっているはずだ」と言った。ドゥルガも「証明されてから来い」と言った。機会を待っていた。その機会というのが、こういう時ではないのか。


「二種類あります」レインはカルトに向き直った。「普通のポーションと、別の薬草を混ぜた試作品と。試作品の方は、古い書に効果が倍近く持続すると書かれています。ただし実際に使ったことはないので——普通のものを使う方が確かです」


 カルトはしばらく傷を見てから、「試作品の方を使ってみていいか」と言った。


「え」


「どうせ試すなら今の方がいいだろう。こっちも深い傷じゃないし、双方のためになるかもしれない」


 その判断の早さに、レインは少し面食らった。「わかりました。ただ、普通のものも手元に持っておきます。もし何かあれば、すぐに」


「それで頼む」


 深い緑の小瓶を棚から取った。傷口に少量かけた。甘い匂いが立ち上る。傷の周囲が、じわりと温かくなるのが見えた——気がした。



 しばらく待った。


 十分ほど経ったころ、カルトが腕を曲げて感触を確かめた。「痛みが引いてる」


「いつもより早いですか」


「わりと早い。普通は使ってからしばらくかかるんだが——もう楽になってる」


 普通のポーションも傷の回復を助けるが、痛みが和らぐまでには時間がかかる。それが早い。それだけのことかもしれない。でも——「早くなった」という言葉は、試作品が何かを変えたことの一つの証拠になる。


「もう少し様子を見てもいいですか」と言って、カルトは了承した。


 夕暮れ前まで小屋に座って話した。カルトはエクラ方面へ向かう旅の途中で、荷を届ける仕事をしているらしい。タルン村のことは「山の奥に小さな村がある」と聞いていた程度で、霧穴のことは知らなかった。


「ダンジョンを一人で管理しているのか」


「管理というか、薬草を採りにいっています。ポーションにして売っています」


「なるほど」カルトはときどき腕を確かめていた。「今もまだ、痛みが来ない。普通は少しずつ戻ってくるんだが」


「持続時間が変わっているのかもしれません」


「もしそれが本当なら——かなりいい薬だ」カルトは立ち上がった。「エクラへ行ったら、このポーションのことを話してもいいか」


「どうぞ」


 カルトは荷物を背負い、日が傾いた山道を足取りよく下りていった。



 その日の夕方、シルバじいさんを訪ねた。


「機会がありました」と話すと、じいさんが椅子から少し前に出た。


「傷に使ったか」


「旅人が来ました。本人が試してみたいと言ったので」


「効きはどうだった」


「使ってから十分もしないうちに痛みが引いたと言っていました。夕暮れになっても持続していました」


 じいさんはしばらく黙った。天井を見るような顔をして、それから「そうか」と言った。


「古い書の記録通り、ということですか」


「少なくとも、効きが変わっていることは確かになった」じいさんは棚から古い書を引き出してぱらぱらとめくった。「倍というのが正確かどうかはわからないが、持続が伸びることは間違いなさそうだ」


「わかりました」


「残りはどれだけある」


「使ったので今は一本もありません。霧花草をまた採ってきて作ります」


「霧花草を持ってきたら見ておく」じいさんは棚に古い書を戻した。「急がず、数を確かめながら作れ」


 帰り道、今日のことを頭の中で整理しながら歩いた。


 試作品が、効く。それがわかった。数字で証明したわけではない。でも——使った本人が「これは違う」と言った。じいさんも「効きが変わっていることは確かだ」と言った。


 それで十分だと思った。

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