第18話:旅人と薬
ドゥルガが去ってから二日後、ロウン街道の方から男の声が聞こえた。
「小屋がある——」
声は若かった。
レインが外へ出ると、山道の中ほどに一人の男が立っていた。年はレインと同じくらいか、少し上だろうか。背に旅荷を背負い、右腕を押さえている。袖が濡れたように黒ずんでいた。
「入ってもいいか。怪我をした」
「どうぞ」
男は——カルトと名乗った——小屋に入るなり荷物を降ろして腰を下ろした。袖を捲ると、腕の内側に引っかき傷がある。爪ほどの深さだが、血が止まりきっていない。
「山道で岩に引っかけた。タルン村まで行けば薬師がいると聞いたが、ここの方が先だったから」
「村のシルバじいさんに習ってポーションを作っています。使いますか」
カルトはレインを見た。「お前が作ったのか」
「はい」
少し間があった。「頼む」
*
棚を確かめた。通常のポーションが二本。それから深い緑の一本——試作品だ。
(どちらを使うか)
カルトの傷は、出血こそあるが深くはない。普通のポーションで問題ない。試作品はまだ実際に使ったことがない。
——でも。
シルバじいさんは「効きが変わっているはずだ」と言った。ドゥルガも「証明されてから来い」と言った。機会を待っていた。その機会というのが、こういう時ではないのか。
「二種類あります」レインはカルトに向き直った。「普通のポーションと、別の薬草を混ぜた試作品と。試作品の方は、古い書に効果が倍近く持続すると書かれています。ただし実際に使ったことはないので——普通のものを使う方が確かです」
カルトはしばらく傷を見てから、「試作品の方を使ってみていいか」と言った。
「え」
「どうせ試すなら今の方がいいだろう。こっちも深い傷じゃないし、双方のためになるかもしれない」
その判断の早さに、レインは少し面食らった。「わかりました。ただ、普通のものも手元に持っておきます。もし何かあれば、すぐに」
「それで頼む」
深い緑の小瓶を棚から取った。傷口に少量かけた。甘い匂いが立ち上る。傷の周囲が、じわりと温かくなるのが見えた——気がした。
*
しばらく待った。
十分ほど経ったころ、カルトが腕を曲げて感触を確かめた。「痛みが引いてる」
「いつもより早いですか」
「わりと早い。普通は使ってからしばらくかかるんだが——もう楽になってる」
普通のポーションも傷の回復を助けるが、痛みが和らぐまでには時間がかかる。それが早い。それだけのことかもしれない。でも——「早くなった」という言葉は、試作品が何かを変えたことの一つの証拠になる。
「もう少し様子を見てもいいですか」と言って、カルトは了承した。
夕暮れ前まで小屋に座って話した。カルトはエクラ方面へ向かう旅の途中で、荷を届ける仕事をしているらしい。タルン村のことは「山の奥に小さな村がある」と聞いていた程度で、霧穴のことは知らなかった。
「ダンジョンを一人で管理しているのか」
「管理というか、薬草を採りにいっています。ポーションにして売っています」
「なるほど」カルトはときどき腕を確かめていた。「今もまだ、痛みが来ない。普通は少しずつ戻ってくるんだが」
「持続時間が変わっているのかもしれません」
「もしそれが本当なら——かなりいい薬だ」カルトは立ち上がった。「エクラへ行ったら、このポーションのことを話してもいいか」
「どうぞ」
カルトは荷物を背負い、日が傾いた山道を足取りよく下りていった。
*
その日の夕方、シルバじいさんを訪ねた。
「機会がありました」と話すと、じいさんが椅子から少し前に出た。
「傷に使ったか」
「旅人が来ました。本人が試してみたいと言ったので」
「効きはどうだった」
「使ってから十分もしないうちに痛みが引いたと言っていました。夕暮れになっても持続していました」
じいさんはしばらく黙った。天井を見るような顔をして、それから「そうか」と言った。
「古い書の記録通り、ということですか」
「少なくとも、効きが変わっていることは確かになった」じいさんは棚から古い書を引き出してぱらぱらとめくった。「倍というのが正確かどうかはわからないが、持続が伸びることは間違いなさそうだ」
「わかりました」
「残りはどれだけある」
「使ったので今は一本もありません。霧花草をまた採ってきて作ります」
「霧花草を持ってきたら見ておく」じいさんは棚に古い書を戻した。「急がず、数を確かめながら作れ」
帰り道、今日のことを頭の中で整理しながら歩いた。
試作品が、効く。それがわかった。数字で証明したわけではない。でも——使った本人が「これは違う」と言った。じいさんも「効きが変わっていることは確かだ」と言った。
それで十分だと思った。




