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第16話:最初の芽

 種を蒔いてから七日が経った。


 この一週間、毎日大空洞を確認しに行った日もあれば、ポーション作りで手が離せなかった日もある。芽はまだ出ていなかった。でも土の湿り気は保たれていたし、霧花草の挿し穂も立ち続けていた。


 今日は朝から晴れていた。山道を歩くと草に露が光っていて、遠くの稜線まで鮮明に見える。


 小屋で水筒と松明を確かめてから、霧穴へ入る。今日は採取よりも先に大空洞へ向かおうと思った。理由はうまく説明できないが、今日は先に行きたかった。


 採取ポイントを横目に通り過ぎた。紋様の広間を抜けると、奥から風が来る。


 通路がゆるく曲がる。前方から白い光が漏れてきた。



 大空洞に入った。


 今日は光がまっすぐ降りていた。天井の隙間から複数の筋が中央へ向かって差し込んで、霧を照らしている。いつより空洞全体が明るく感じた。


 まず第一耕地へ向かった。


 かがんで、土の面を見た。


 ——小さな緑の点があった。


 一つ、二つ、三つ。土の面から、細い茎が頭を出している。まだ長さは爪の先ほど。葉になるかどうかもわからないくらい小さな芽だ。でも——確かに出ていた。


(出た)


 声が出なかった。


 膝をついて顔を近づけた。朝の光の中で、小さな芽が薄緑色をしている。産毛はまだない。茎が細くて、触ったら折れそうなほど頼りない。それでも確かに土を割って出てきた。


「出た」


 今度は声になった。空洞の中に響いて、岩に反射して返ってくる。


 三粒が出ていた。他の粒はまだ土の中にあるのかもしれない。それでも三粒が出た。


(ミストハーブの種が、ここで育つ)


 霧がある。光がある。土がある。種はちゃんとそれを知っていた。


 しばらく、そこでじっと座っていた。



 落ち着いてから第二耕地を確かめた。


 霧花草の挿し穂は——茎の根元から、ほんの小さな新しい葉が顔を出していた。


 挿し穂から新しい葉が出るということは、根がちゃんと張ったということだ。土の中でちゃんとつながったということだ。


(二つとも、うまくいった)


 ゆっくり立ち上がった。


 空洞の天井を見上げた。光が霧の中を通って、この場所全体を静かに照らしている。


 ガルドじいさんはここへ来たことがあったのだろう。あれだけ霧穴を歩いた人間が、この空洞を知らないはずがない。なのに何もしなかった。なぜだろうと考えたことがあったが——今は少し違う気がした。


 できなかったのではなく、タイミングがなかっただけかもしれない。それとも、誰かがやることを待っていたのかもしれない。


(「お前ならうまくやれる」)


 手紙の一言を思い出した。あの言葉がなんでこれだけ短かったのか、レインにはまだわからない。でも——こういう日のことを、じいさんは知っていたのかもしれないという気がした。あの一言に、そういう意味があったのかもしれない。


 答えは出ない。でも悪い気はしなかった。



 帰り際に採取ポイントでミストハーブを五本折り取り、小屋に戻って乾燥台に並べた。炭に火をつけながら、早く報告したくて気持ちがそわそわした。


 ポーションを二本仕上げてから村へ下りた。


 シルバじいさんの家の扉を叩くと、「入れ」と声がした。


「芽が出ました」


 じいさんが顔を上げた。「ミストハーブの種か」


「三粒、出ていました。霧花草の挿し穂も新しい葉が出ていました。根付いたと思います」


 じいさんは少し間を置いてから、「そうか」と言った。短い言葉だったが、目が少し細くなった。


「大空洞は、その条件が全部揃っていたということだ」


 じいさんはしばらく天井を見るような顔をした。「なかなか、うまいことなっているな」


「はい」


「種が増えてくれば採取量も安定する。急がず、ちゃんと育てろ」


「わかりました」


 帰り道、鍛冶場の前を通ると、ミアが炉の前で作業していた。「報告がある」と声をかけると、ようやくこちらを向いた。


「芽が出たか」


「三粒。霧花草も新しい葉が出てた」


「そう」ミアは鉗子を置いた。「良かった」


「ドゥルガさんがそろそろ来る頃だと思うんですが——ポーションをもう少し多く用意したくて」


「月十本の話か」


「それに向けて。乾燥中を入れると十本を少し超えたくらいです」


「数より続くかどうかだ。来月も再来月も同じだけ出せるかが本番だろう」


 ミアは短く言って、また炉に向き直った。


「頑張る」


 レインは笑って歩き出した。


 空はまだ明るかった。今日はいい日だと思った。一粒の芽が出たというだけで、こんなに気分がいい。


(次に来た時にはもっと出ているかもしれない)


 その楽しみを持ちながら、小屋への道を歩いた。松明の準備をして、明日の採取の段取りを頭の中で組んだ。月十本——今月だけなら届くかもしれない。でも大事なのは来月も再来月も同じだけ出せること。大空洞の耕地が育ってくれれば、それが安定する気がした。


 一粒が、始まりだ。

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