第16話:最初の芽
種を蒔いてから七日が経った。
この一週間、毎日大空洞を確認しに行った日もあれば、ポーション作りで手が離せなかった日もある。芽はまだ出ていなかった。でも土の湿り気は保たれていたし、霧花草の挿し穂も立ち続けていた。
今日は朝から晴れていた。山道を歩くと草に露が光っていて、遠くの稜線まで鮮明に見える。
小屋で水筒と松明を確かめてから、霧穴へ入る。今日は採取よりも先に大空洞へ向かおうと思った。理由はうまく説明できないが、今日は先に行きたかった。
採取ポイントを横目に通り過ぎた。紋様の広間を抜けると、奥から風が来る。
通路がゆるく曲がる。前方から白い光が漏れてきた。
*
大空洞に入った。
今日は光がまっすぐ降りていた。天井の隙間から複数の筋が中央へ向かって差し込んで、霧を照らしている。いつより空洞全体が明るく感じた。
まず第一耕地へ向かった。
かがんで、土の面を見た。
——小さな緑の点があった。
一つ、二つ、三つ。土の面から、細い茎が頭を出している。まだ長さは爪の先ほど。葉になるかどうかもわからないくらい小さな芽だ。でも——確かに出ていた。
(出た)
声が出なかった。
膝をついて顔を近づけた。朝の光の中で、小さな芽が薄緑色をしている。産毛はまだない。茎が細くて、触ったら折れそうなほど頼りない。それでも確かに土を割って出てきた。
「出た」
今度は声になった。空洞の中に響いて、岩に反射して返ってくる。
三粒が出ていた。他の粒はまだ土の中にあるのかもしれない。それでも三粒が出た。
(ミストハーブの種が、ここで育つ)
霧がある。光がある。土がある。種はちゃんとそれを知っていた。
しばらく、そこでじっと座っていた。
*
落ち着いてから第二耕地を確かめた。
霧花草の挿し穂は——茎の根元から、ほんの小さな新しい葉が顔を出していた。
挿し穂から新しい葉が出るということは、根がちゃんと張ったということだ。土の中でちゃんとつながったということだ。
(二つとも、うまくいった)
ゆっくり立ち上がった。
空洞の天井を見上げた。光が霧の中を通って、この場所全体を静かに照らしている。
ガルドじいさんはここへ来たことがあったのだろう。あれだけ霧穴を歩いた人間が、この空洞を知らないはずがない。なのに何もしなかった。なぜだろうと考えたことがあったが——今は少し違う気がした。
できなかったのではなく、タイミングがなかっただけかもしれない。それとも、誰かがやることを待っていたのかもしれない。
(「お前ならうまくやれる」)
手紙の一言を思い出した。あの言葉がなんでこれだけ短かったのか、レインにはまだわからない。でも——こういう日のことを、じいさんは知っていたのかもしれないという気がした。あの一言に、そういう意味があったのかもしれない。
答えは出ない。でも悪い気はしなかった。
*
帰り際に採取ポイントでミストハーブを五本折り取り、小屋に戻って乾燥台に並べた。炭に火をつけながら、早く報告したくて気持ちがそわそわした。
ポーションを二本仕上げてから村へ下りた。
シルバじいさんの家の扉を叩くと、「入れ」と声がした。
「芽が出ました」
じいさんが顔を上げた。「ミストハーブの種か」
「三粒、出ていました。霧花草の挿し穂も新しい葉が出ていました。根付いたと思います」
じいさんは少し間を置いてから、「そうか」と言った。短い言葉だったが、目が少し細くなった。
「大空洞は、その条件が全部揃っていたということだ」
じいさんはしばらく天井を見るような顔をした。「なかなか、うまいことなっているな」
「はい」
「種が増えてくれば採取量も安定する。急がず、ちゃんと育てろ」
「わかりました」
帰り道、鍛冶場の前を通ると、ミアが炉の前で作業していた。「報告がある」と声をかけると、ようやくこちらを向いた。
「芽が出たか」
「三粒。霧花草も新しい葉が出てた」
「そう」ミアは鉗子を置いた。「良かった」
「ドゥルガさんがそろそろ来る頃だと思うんですが——ポーションをもう少し多く用意したくて」
「月十本の話か」
「それに向けて。乾燥中を入れると十本を少し超えたくらいです」
「数より続くかどうかだ。来月も再来月も同じだけ出せるかが本番だろう」
ミアは短く言って、また炉に向き直った。
「頑張る」
レインは笑って歩き出した。
空はまだ明るかった。今日はいい日だと思った。一粒の芽が出たというだけで、こんなに気分がいい。
(次に来た時にはもっと出ているかもしれない)
その楽しみを持ちながら、小屋への道を歩いた。松明の準備をして、明日の採取の段取りを頭の中で組んだ。月十本——今月だけなら届くかもしれない。でも大事なのは来月も再来月も同じだけ出せること。大空洞の耕地が育ってくれれば、それが安定する気がした。
一粒が、始まりだ。




