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第14話:四日目の耕地

 種を蒔いてから四日が経った。


 山道を歩きながら、レインは空を見上げた。雲が多くて日差しが弱い。山の端が霞んで見える。いつもより少し早めに家を出たのは、早く確かめたかったからだ。


 四日で芽が出るとは思っていない。それでも気になってしまう。


 小屋の前に着いて、扉を開けた。水筒に水を満たし、松明を一本取り、採取袋を肩にかける。昨日仕上げたポーションが棚に二本ある。今日も採取すれば三本になるかもしれないが、今日の目的は耕地の確認だ。


 入口をくぐった。霧が顔に冷たく当たる。今日は少し濃い気がした。奥から来る冷気も強い。


 採取ポイントで岩の裂け目を確かめると、ミストハーブが四本ほど育っていた。根元の青白い光が暗がりによく映える。一本ずつ丁寧に折り取って袋に入れた。奥へ進む。


 紋様の広間を通り過ぎた。壁の紋様が松明の光の中で細い影を作る。見るたびに何かが読めそうな気がするが、今日も読めない。ただ、もう怖いとは思わなくなっていた。三度四度と通っているうちに、「ここにあるもの」として目に映るようになった。


 通路がゆるく曲がる。三十歩ほど歩くと、前方から白い光が漏れてきた。



 大空洞に入った。


 今日は左壁側が明るく照らされていた。天井の複数の隙間から光の筋が斜めに降りて、霧の中を白く通り抜ける。空洞全体がしずかに輝いていた。


 まず第一耕地へ向かった。自分が鍬を入れた黒い土の場所だ。


 かがんで、指先を土の面に押し当てた。湿り気がある。乾いてはいない。霧が水分を補い続けてくれているのかもしれない。


 芽は——まだ出ていない。


 当然だと思いながらも、かすかにがっかりした自分に気づいた。


(焦らなくていい)


 昨夜、経営の書で読んだ一節を思い出した。「試みる者は結果を急がぬことで多くを学ぶ。土が力を蓄えるのを待てない者は、種を掘り返して傷める」——読んだ時には素直に「そうだな」と思ったのに、実際に来てみると確かめたくなってしまう。


 土をそっと掘り返して種の様子を確かめた。粒は残っていた。乾いても腐ってもいない。元の深さに戻して、表面を軽く平らにした。


 次に第二耕地へ歩いた。水たまりの近くに植えた霧花草の挿し穂の場所だ。


 茎が、立っていた。


 しおれていない。葉の色も落ちていない。産毛が光を受けてほんのり白く光る。三日前と変わらず、いや——少し色が濃くなっているような気がする。


 茎の根元の土をそっとかき分けてみると、押し返すような感触がある。引っ張っていないのに、土が茎を掴んでいるような手ごたえだ。


(根付き始めているのかもしれない)


 引っ張って確かめようかと思ったが、やめた。根が浅い時期に引くと傷める。今はそっとしておく方がいい。


「もう少し待つ」


 声に出した。誰もいない空洞の中で、声が岩に反射してわずかに返ってきた。


 帰り際、霧花草の葉を数枚採取した。今日は実験用に多めに持ち帰ることにした。



 小屋に戻って、ミストハーブを乾燥台に並べ、炭に火をつける。弱火を整えてから、作業台に霧花草の葉を広げた。


 採取から数時間経っても、色も張りも変わらない。普通の草は端から色が落ちていくのに、この葉は違う。


(なぜ鮮度が落ちないのか)


 理由はわからない。じいさんも「普通の草ではない」と言っていた。ただ——こうして手に持っていると、確かに何かが違うとわかる。産毛の感触、わずかな温かさ、甘い匂い。


 ポーションを三本仕上げてから夕暮れ前に村へ下りた。


 シルバじいさんを訪ねて、葉を一枚見せた。「乾燥させてから混ぜるべきか、生のままか教えてもらえますか」と尋ねると、じいさんはしばらく指先で確かめてから言った。


「古い処方には『共に煎じる』とだけあった。乾燥させる話は出ていない」


「では生で混ぜる、ということですか」


「そうなる。ただ量については書かれていなかった。少量から始めた方がいい」


「わかりました。明日試してみます」


「仕上がったら一本持ってこい。見る」


 じいさんは葉を一枚、棚の方へ持っていった。手元で確かめるつもりなのかもしれない。


 帰り道、鍛冶場の前を通るとミアが工具を片付けているところだった。顔もこちらへ向けずに「耕地どうだった」と言った。


「芽はまだだ。霧花草の挿し穂は根付き始めているかもしれない」


「四日じゃ芽は早い」


「そうだね」


「明日実験するの?」


「うん」


「そう」ミアは棚に工具を戻した。「試したら教えて」


 扉を閉めて家の方へ歩いていくミアの背中を見送って、レインも歩き出した。


(試したら教えて)


 短いが確かな言葉だと思った。誰かに伝えるべき結果があるというのは、不思議と力になる。

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