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第13話:土を耕す

 二日後、レインは道具を持って霧穴へ向かった。


 いつもより荷が重い。背負い袋に小型の鍬と水筒を入れ、腰の巾着には黒い粒が十数個入っている。布袋の底から集めたミストハーブの種だ。


 昨夜、経営の書を読んでいたら、こんな一節があった。「土地は使われることで力を育む。手を入れぬ土地は石のまま眠る。先に手を入れた者が、その土地の主となる」読んだ時、なんとなく大空洞の黒い土を思い出した。


 使われることで力を育む。それが本当なら——試してみる価値がある。


 入口をくぐり、採取ポイントでミストハーブを四本折り取ってから、奥へ進んだ。紋様の広間を過ぎ、通路を曲がると、前方から白い光が漏れてくる。


 大空洞に入った。



 今日は光の当たり具合がよかった。天井の隙間から複数の筋が降りて、空間の中央あたりを明るく照らしている。霧が薄く漂っていて、その中を光が通って白く輝いている。


 まず黒い土が厚く積もった場所まで歩いた。光が十分に届いていて、土も湿り気がある。ここが一番いいと思った。


 かがんで、鍬で土をほぐし始めた。


 土が持ち上がる。小石を手で取り除く。もう少し掘る。岩が出てきたら横へどかす。根が張りやすいよう、固まりを砕いてやる。


 十五分ほど作業すると、半畳ほどの小さな耕地ができた。


(小さいな)


 思いながら、悪くはないとも思った。始まりというのは、いつもこういうものだ。


 水たまりの近くにも同じくらいの場所を作った。こちらの土は色が濃く、湿り気が高い。霧花草の挿し穂はここに植えてみることにした。霧花草は水が近い場所の方がよく育っていたから。



 ミストハーブの種を、爪の先で小さな穴を作りながら一粒ずつ埋めた。


 深さはどのくらいがいいのか、正直わからない。ミストハーブは岩の裂け目に育つ。あまり深くなくていいのだろうと思って、一寸ほどの深さで埋めた。上から土をかぶせて軽く押さえる。


 十数粒、間隔を空けながら並べた。全部入れた。


 水は水たまりから少し手に汲んで、土に湿らせた。どのくらい必要かわからないから、今日は湿る程度にしておく。


 霧花草の挿し穂は、水たまりの近くの耕地に茎の部分を差し込んで土で固めた。少し押さえて安定させる。


 全部終わって、立ち上がった。


 目印として、耕地の隅に平たい石を一枚ずつ置いた。次に来た時にすぐわかるように。



 作業をしながら、ぼんやりと考えていた。


 両親が死んだのは冬の熱病だったとガルドじいさんが言っていた。レインが五つの頃の話だ。記憶の中の親の顔はもうほとんど残っていない。ただ、母親の手が温かかったことと、父親の声が低くて穏やかだったことだけは覚えている。


 その冬、タルン村には薬師がいなかった。「間に合わなかった」とガルドじいさんは一度だけ言って、それ以来その話題を出したことはない。


 薬があれば、どうなっていたのかはわからない。


 でも——あの冬、村に薬があったなら、誰かが助かったかもしれない。両親じゃなくても。他の誰かが。


「だから作るんだ」と声に出してみた。


 誰もいない空洞で、自分の声が岩に反射して少し遅れて返ってくる。間抜けな気がした。でも、悪くない気分だった。


 ポーションを作ることが嫌いじゃないのは、多分そういうことだ。経営の書に書いてあることを試したいのも、大空洞に種を蒔きたいのも——根のところはそういうことなのだと思った。



 道具を背負い袋に収めて帰ろうとした時、空洞の入口のところにスケイルリザードがいた。


 いつもは主通路の中をうろついているのに、今日は空洞の入口で止まっている。こちらを向いている——いや、こちらよりも少し後ろ、耕地の方を見ているような気がした。


 レインは立ち止まった。


 赤い目がじっと向いている。その目線の先は、確かに種を蒔いた場所あたりだ。


 数秒、そのまま止まっていた。


 それから何事もなかったようにくるりと向きを変えて、主通路へ去っていった。振り返らなかった。


(見ていたのか)


 確かめる手立てはない。ただ——嫌な気はしなかった。なんとなく、認められたような気がした。根拠はないが、そういう気がした。



 小屋の前に出ると、午後の光が山の稜線に当たっている。霧穴の入口から霧が流れ出ていて、光を受けて白く輝いていた。


 何日かすれば、何かが変わるかもしれない。芽が出るかもしれないし、何も出ないかもしれない。


 でも、手を動かした。


 それで今日のところは十分だと思った。


 松明の始末をして、採取したミストハーブを乾燥台に並べた。炭に火をつけながら、あの耕地のことを考えた。次に来た時にどうなっているか——それが少し楽しみだった。

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