第12話:薬師の知識
翌朝、レインはシルバじいさんの家へ向かった。
村の外れ、低い垣根に囲まれた小さな家だ。煙突からいつも薬草を煮る匂いが漂っている。扉を叩くと、少し間があってから「入れ」と声がした。
土間の奥、大きな作業机の前でじいさんが腰を落ち着けていた。机には乾いた薬草と小さな鉢がいくつか並んでいる。
「どうした」
「見てもらいたいものがあります」
巾着から葉を取り出して、差し出した。
じいさんはしばらく黙って眺めた。それから葉を指先でつまんで、光の方へかざした。裏返して縁を確かめ、表面の産毛の感触を指先で確かめる。切り口の乾き具合も見た。
「どこで採ってきた」
「霧穴の奥に大きな空洞があります。そこの岩の隙間に生えていました」
じいさんはまた黙った。
しばらく待っていると、「霧花草だ」と言った。
「霧花草」
「昔の薬師の書に出てくる草だ。霧が常にある場所に、ほんのわずかな光と、鉱物の混じった土がないと育たない。滅多に見つからない——というより、今はもうどこにもないと思っていた」
じいさんは葉を返して、手を膝の上で組んだ。まだ何かを考えているような顔だった。
*
「昔の処方では、ミストハーブと一緒に使う」
「どう使うんですか」
「そのままでは効果が薄い。ポーションに混ぜて煎じると——効きが長続きするとされていた。傷の回復を助ける薬の効果が、通常の倍近く持続すると古い書には書かれていた」
「倍」
「書いてあったというだけだ。俺は試したことがない。実物を見たことがなかったから」じいさんは少しの間、葉を眺めた。「ただ、採取してもこれだけ鮮度が保たれているのは——普通の草ではないな」
「昨日の昼に取ってきました。一晩経っても、しなびませんでした」
じいさんは少し眉を上げた。「そうか」
「大空洞には、この葉がかなり生えています。広さは人が十人以上入れるくらい。天井の岩の隙間から光が差し込んで、奥の方に水が湧いている場所もありました」
じいさんはしばらく黙って、天井の方を見た。
「ガルドは——」と言いかけて、止まった。
レインは待った。
「いや。なんでもない」じいさんは小さく首を振った。「試してみるといい。乾燥させてどうなるか、煎じてどんな匂いがするか、まずそこからだ」
「ミストハーブの種については——」
「なんだ」
「あの空洞、土の質がよさそうな場所がありました。ミストハーブを育てられないかと思って」
じいさんはしばらくレインの顔を見た。
「種か」じいさんは立ち上がって棚へ向かった。「乾燥しきったミストハーブの根元に、黒い粒がついていることがある。あれが種だ。ただし採取の時点で大抵落ちてしまう。布袋の底に残っていたら、それを使える」
「使えますか」
「使えるかどうかはわからん。試したことがないからな」じいさんは棚から小さな磁器の瓶を取り出した。「ただ——霧穴の土で育つかどうかは、やってみないとわからない。ミストハーブは霧が育てる草だ。あの空洞に霧があるなら、可能性はある」
*
帰り道、鍛冶場の前を通るとミアが炉の前で作業していた。顔だけこちらへ向けて、「何かあったの」と言った。
「シルバじいさんに草を見せてきた」
「草?」
「霧穴の奥に、変わった葉があって。霧花草という名前だって。ポーションに混ぜると効きが長続きするかもしれないって」
ミアは少し考えるような顔をした。「かもしれない、か」
「まだ試してないから」
「で、試すの?」
「試す」
「そう」ミアは炉に視線を戻した。「面白いものを見つけるね、あなたは」
それだけ言って、作業に戻った。
*
タルン村の道を歩きながら、レインは両親のことを考えていた。
親が亡くなったのは、レインが五つの頃だった。冬の熱病だったとガルドじいさんから聞いている。その頃、タルン村にはまだ薬師がいなかった。シルバじいさんが越してきたのはその翌年のことで、「もう少し早ければ」とじいさんは一度だけ言った。一度だけで、それ以降は口にしなかった。
薬があれば助かったのかどうか、今となってはわからない。
でも——ないよりあった方がいい。それだけは確かだと思う。
霧穴の方向を振り返った。
(だから、薬を作ることが嫌いじゃない)
思いながら歩いた。自分でも気づいていなかったが、そういうことかもしれない。ポーション作りを面倒だとか、ただの金稼ぎだとか思ったことが一度もないのは——根のところで、そういう理由があるのかもしれなかった。
布袋の底を指で確かめた。
細かい粒が、少しだけ残っていた。




