第11話:未知の葉
翌朝、レインは日が昇り始めた頃に山道を歩いていた。
道沿いの草に夜露がついていて、靴の先が濡れる。霧穴の入口に着く頃には、朝の山の空気と穴から流れ出る冷気が混ざり合って、顔がひんやりとした。入口の霧が今日は少し濃い。
小屋の扉を開けて内側を見渡した。昨日作ったポーションが三本。松明が二本。水筒を満たして腰に提げ、布袋を肩にかけた。
入口をくぐる。冷気と苔の匂い。足音が通路に響く。
採取ポイントで岩の裂け目を確かめると、ミストハーブが五本ほど育っていた。根元の青白い発光が暗がりでよく目立つ。丁寧に折り取って布袋に収め、そのまま奥へ進んだ。
紋様の広間を過ぎる。壁の紋様が松明の光に浮かぶ。細い線が幾重にも重なって何かを表しているような形だが、今日も読めない。
奥から風が来る。昨日より少し強い気がした。
通路がゆるく曲がる。三十歩ほど歩くと、前方が明るくなった。
大空洞の入口に立った。
*
昨日とは光の角度が違う。天井の複数の隙間から差し込む筋が少し斜めになっていて、空間の右半分を白く照らし、左半分に影を作っている。
昨日は入口で立ち止まっただけだった。今日は奥まで歩いてみようと思った。
足を進める。床を踏みながら進むと、場所によって地面の様子が違うことに気づく。入口付近は岩が多い。十歩ほど進むと、岩の間に黒っぽい土が厚く積もった場所が現れた。踏んでみるとふかりとした感触がある。湿り気がある。さらに奥へ進むと、また岩が多くなり、その先でまた土に戻る。場所によって層が異なるようだ。
光が強く当たっている場所では、床の土が乾いている。影になっている場所の土は湿っている。
(なるほど)
どこに何が育つかは、光と水の具合で変わるのだろう。
*
薄緑の葉が固まって生えている場所まで来た。昨日より近くで見ると、一枚一枚の形がよくわかる。手のひらほどの大きさで、縁がなめらかに丸まっている。表面に細かい産毛があって、光を受けてわずかに白く光る。茎は細く白っぽいが、岩の隙間にしっかりと根を張っていて、引いても簡単には抜けない。
かがんで、一番大きな葉にそっと触れた。
しっとりとしている。冷たくはなく、ほんのり温かい。指先に細かい産毛が引っかかる。
茎の途中をつまんで、ゆっくり引いた。ぱつんと切れた。切り口から薄い液がにじんで、草の匂いがした。その奥に、かすかに甘い匂いがある。花か蜜のような——植物の汁とは少し違う匂いだ。
嗅いだだけでは毒の気配はない。少なくとも今のところは。
手のひらに乗せて眺めた。もう一枚、同じくらいの大きさのものを選んで切り取った。つぶれないよう、腰の小さな巾着に入れた。
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空洞をさらに右の方へ歩くと、壁際から水音がした。
耳を澄ます。ぽたぽた、と細い音がする。壁に近づくと、天井から水が一筋、岩の表面を流れ落ちていた。岩の窪みに水たまりができていて、底の石が透けるほど澄んでいる。
手を入れてみた。
冷たくない。
山の奥の洞窟なら冷たいはずだと思っていたが、ほんのりと温かさがある。温泉とは違う、でも体温に近いような温度だ。地の深いところから何か熱いものが来ているのか——理由はわからない。
この水たまりの縁にも薄緑の葉が育っていた。水に近い場所の方が育ちがいいのかもしれない。
*
黒い土が厚く積もった場所に戻って、かがんで指を差し込んだ。
一寸ほどは柔らかい土が続く。細かく砕けていて、水分をよく含んでいる。その下は硬い岩だが、表面の土は十分に深い。
(ここなら、何か育てられるかもしれない)
ミストハーブは霧の多い場所に育つ。ここには霧がある。光がある。水がある。土がある。
でも——どうやって? ミストハーブに種があるのかどうか、実は知らない。採取している茎に種がついているのか、どこから新しい株が育つのか、考えたことがなかった。
シルバじいさんに聞けばわかるかもしれない。
(ガルドじいさんは、ここへ来たことがあったのか)
きっとあったと思う。あれほど長くここを歩いた人間が、この場所に気づかないはずがない。では、なぜ何もしなかったのか。
答えは出ない。でも——自分にはまだ時間がある。
*
帰り際、スケイルリザードが主通路の向こうから歩いてきた。赤い目がこちらを向いて、いつも通り横を通り過ぎる。
今日は一瞬だけ、歩みが鈍った気がした。
振り返ったが、もう奥へ去っていた。気のせいかもしれない。
*
小屋に戻って、ミストハーブを乾燥台に並べた。炭に火をつけて、弱火を整える。
乾燥の間に、巾着から葉を取り出して作業台に置いた。
一時間が経っても、しなびていなかった。
切り取ってずいぶん経つのに、色も触り心地も変わらない。ミストハーブなら少しずつ乾燥が進むのに、この葉にはその気配がない。
(何かが違う)
ポーション三本を仕上げた頃、昼が近かった。
明日、シルバじいさんのところへ行こう。この葉が何なのか——じいさんなら知っているかもしれない。




