第10話:光の先へ
数日後、小屋が完成した。
壁板を張り、扉の金具を取り付け、棚を固定した。乾燥台には煉瓦を積んで炭台を作り、その上に金網を張った。三段棚の一番上にはポーションの瓶を並べ、二段目と三段目は薬草の保管用にする。作業台は厚い板を二枚重ねたもので、シルバじいさんの家のものより少し広い。
霧穴の入口から小屋の扉まで、十歩もかからない。
「思ったより使いやすい」と、その朝レインは思った。
*
初めて現地で乾燥作業をやってみた。
薬草を採取して小屋に戻り、煉瓦台に炭を熾す。茎を一本ずつ金網の上に並べる。弱い熱が下から来て、葉の水分がゆっくり抜けていく。一時間ほどで、シルバじいさんの家で乾燥させたものと同じ状態になった。
これまでは採取した薬草を布袋に入れてタルン村まで持ち帰り、じいさんの竈で乾燥させてから自分でポーションを作っていた。往復で半日以上かかっていた。
今日は採取から乾燥まで、この場所で済む。
乾燥の間に煎じ用の鍋と水を用意し、ミストハーブが乾き上がると同時に火にかけた。弱火でゆっくり。香りが立ってくる。少し待って、こし布で濾して、瓶に詰める。
三本ができた。
村まで帰らなくても作れた。
「……すごく楽だ」
声に出してみると、なんとなく少し可笑しかった。こんなことを一人で笑っているのが、少し間抜けな気がした。でも嬉しかった。
*
作業を終えた後、レインはしばらく霧穴の入口を眺めた。
あの光のことを、まだ考えている。
白い光。遠い。柔らかい。松明の反射ではないもの。
前回の探索からもう何日も経っていた。今日は早い時間に作業が終わった。松明はまだ二本ある。
「少しだけ、先まで行ってみよう」
入口をくぐって中に入った。ひんやりとした空気が顔に当たる。松明を持ち上げて、主通路を進む。
スケイルリザードが暗がりの向こうから歩いてきた。いつものように赤い目がこちらを向いて、そのまま横を通り過ぎた。振り返ることもなく奥へ去っていく。
(今日もか)
もう驚かない。ただ、不思議だと思う。この生き物は、何かを知っているのだろうか。
*
採取ポイントを過ぎて、紋様の広間を進んだ。壁の紋様が松明の光に浮かび上がる。細かい線の重なり。何かを意味している気がするが、読めない。
奥から来る風が、少し強くなった気がした。
足を進めた。通路がゆるく曲がっている。岩肌が続く。天井が高い。松明の炎が揺れる。
十歩、二十歩。
明るくなってきた。
松明の光だけでは説明できない明るさが、前方から来ている。白く、柔らかく。壁に当たって反射している様子ではなく、どこか遠くから自然に漂ってくる光だ。
三十歩ほど進んだところで、通路が急に広がった。
大きな空間だった。
天井が——遥か高くにある。岩の隙間から細い筋のように光が差し込んでいて、それが空間全体に散らばっている。霧が薄く漂っていて、その霧が光を受けてほんのり白く輝いている。床は広く、岩と土が混じっている。湿っている。
レインは入口で立ち止まって、その空間をしばらく見ていた。
広い。
霧穴の入口付近よりずっと広い。人が十人いても余裕があるくらいの広さだ。
壁には苔が張り付いている。湿気が高いのだろう。足元を見ると、岩の隙間に何かが生えていた。薄緑色の葉。ミストハーブではない——少なくとも今まで見たことのない種類だ。
光が、ここまで届いている。
(……ここなら)
なんとなく、思った。具体的に何かを考えたわけではない。ただ、この空間を見た瞬間に、何かができる気がした。何かが、ここで始まるような気がした。
*
今日はここまでにした。
帰り道、通路を戻りながらレインは頭の中で空間の様子を繰り返した。広さ、明るさ、湿気、床の状態、知らない葉の植物。
明日また来よう。もう少し詳しく見てみよう。
小屋の前に出ると、夕暮れの空が山の稜線の上に広がっていた。オレンジ色の光が霧穴の入口に差し込んで、霧が金色に染まった。レインはそれをしばらく眺めた。
(ガルドじいさんも、あの空間を知っていたんだろうか)
知っていたと思う。あれだけ長い間ここを歩き続けた人間が、気づかないわけはない。
では、なぜ何もしなかったのか。
その答えは、まだわからない。でも——
「俺がやればいい」
声に出したら、なぜか笑えてきた。炉の火の始末をして、山道を下りた。今夜はよく眠れそうだ。




