第109話:整えた者
種蒔きから二百七十一日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。
第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。
第三耕地に進んだ。今日は第四十八バッチの頃合いだった。五本を一本ずつ根元から確かめてから摘み取った。三か所に水をかけた。
岩の隙間の霧花草は今日は葉を開いていた。三枚を刈り取って別の布袋に入れた。
水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。
(九十五歩まで進む)
割れ目の方へ向かった。
*
割れ目に一歩入った。苔の青白い光が通路の壁を薄く照らしていた。十八歩進んで向こう側に出た。
刻みを確かめた。
三十七本になっていた。
(ケルンが来た。三日の間に)
三十七本目だけ表面が荒かった。器の向きは変化なし。
松明に火をつけた。奥の開口部に一歩入った。床が傾き始めた。
一歩ずつ数えながら進んだ。九十歩目で自分の五本目の刻みを確かめた。変わっていなかった。
九十一歩、九十二歩。九十三歩で天井がわずかに低くなった。頭を少し下げた。九十四歩。
九十五歩目を踏んだ。
右の壁に松明を近づけた。縦の溝があった。一本、細くまっすぐ。表面が滑らかだった。
(続いている)
懐から紙を取り出した。炭の欠けで輪郭を追った。刻みの入り始めの角度を先に写した。六枚目の紙になった。丁寧に二度なぞって確かめた。懐にしまった。隣に自分の六本目を刻んだ。
九十六歩目には進まなかった。引き返した。
*
小屋に戻った。乾燥台に今日の十本と霧花草を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。
この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が七百九十八本になっていた。一時間ほどで通常品十本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が八百八本になった。混合品が六十四本になった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。懐に溝の紙を入れていた。
「九十五歩目まで進みました。また右の壁に溝がありました。写してきました」
紙を差し出した。シルバが受け取って、ゆっくりと目を通した。
「六枚目になった」
「はい」
短い間があった。炉の木がくすぶっていた。
「アレンのことを——もう少し話してもいいか」
(また聞かせてくれる)
「はい」
「ガルドがここへ来た頃の話だ。ガルドがここへ最初に入った時、この霧穴は——人が使える形になっていた」
(人が使える形に)
「大空洞も——ですか」
「ああ。大空洞もある。水場も、入口の造りも、道の通り方も——手が入った跡がある。俺たちはそれを知っていた。だが聞いても、ガルドは多くを話さなかった」
シルバが炉の方に視線を向けた。
「アレンはここを整えた者だ」
短い言葉だった。
「次に来る者のために——ということですか」
「そうだ。自分が使うためではない。誰かが来た時に使えるように整えた。そういう仕事をした者だ」
(次に来る者のために)
「ガルドじいさんはそれを知っていたんですか」
「知っていた。だからここを選んだ。アレンが整えた場所を、ガルドが受け継いだ。——そしてお前へ渡した」
長い間があった。炉の火が揺れていた。
「アレンが何者だったか、今もわからないことの方が多い。この霧穴には——お前が来る前から、何重もの時間が積み重なっている。お前の仕事はその続きだ」
(何重もの時間の続き)
「はい」
「——続けてこい。溝がある限り」
「わかりました」
炉の火が揺れた。外は暗くなっていた。
*
夜、経営の書を開いた。
「場所には、その場所を整えた者の時間が残る。次に来た者がその場所で何かを続ける時、整えた者の時間に続く形になる。仕事は一人の時間では終わらない」
(アレンが整えた。ガルドがここへ来た。ガルドがレインへ渡した。ケルンが奥の先まで進んでいる。この場所には、多くの者の時間が重なっている。自分もその一つだ)
棚を見た。通常品が八百八本。混合品が六十四本。
明日も採りに行く。




