王族の記録
守護者「ガーディアン・オブ・エテル」に導かれ、
エコーたちは紫の回廊のさらに奥深くへと進んだ。
やがて、広大な円形の部屋に出た。
天井は高く、壁一面に淡い紫の粒子でできた巨大な記録結晶が埋め込まれている。
部屋の中央には、王座のような台座があり、
その上に古いホログラム装置が静かに輝いていた。
守護者が槍を軽く地面に突き、
恭しく頭を垂れた。
「ここが……エテルリア王族の記録室です。
姫よ、どうぞご覧ください。
あなたが知るべき、真実を」
エコーが警戒しながら言った。
「エリス、無理はするな。
何かあったらすぐに止める」
エリスはアルカナ・リンクの中で小さく頷き、
「うん……見てみたい」と答えた。
守護者が装置に触れると、
部屋全体が紫の光に包まれ、
巨大なホログラムが展開された。
——そこに映し出されたのは、エテルリアの歴史だった。
まず映ったのは、栄華を極めた時代。
美しい紫の粒子が街全体を照らし、
人々が光の橋を渡り、粒子でできた飛行艇が空を舞う。
王族は「エーテルと心を通わせる者」として崇められ、
特に王族の血筋は強い粒子親和性を持っていた。
ホログラムが切り替わる。
「大共鳴」の前夜。
王族の会議室で、厳しい表情の王と王妃が話し合っている。
幼いエリスと、少し年上のルルが、部屋の隅で手を繋いで座っていた。
王の声が響く。
「粒子暴走の兆候はもはや抑えきれない……
我々王族は、最後までこの地に留まり、
粒子を鎮める術を探る。
しかし、子供たちだけは……未来へ逃がさねばならん」
王妃が涙を堪えながら言った。
「ルル、エリス……
お前たちだけでも生き延びて。
エテルリアの血を、未来に繋いで……」
映像が高速で進む。
大共鳴の瞬間。
紫の光が爆発的に広がり、
都市が崩壊していく中、
ルルはエリスを抱きかかえて粒子保存装置へと走る。
守護者が道を切り開き、
二人は装置に辿り着く。
ルルがエリスをカプセルに入れ、
自分のカプセルを諦める瞬間——
エリスはコックピット内で、
声を詰まらせた。
「……お母様……お父様……
お姉ちゃん……」
次の映像は、現代に近い時代。
粒子保存装置から放り出されたエリスが、
旧大陸の孤児院に保護される様子。
記憶を失った状態で、ただ「E13」という番号だけを与えられ、
ヴォートの施設へと移される。
一方、ルルは別の場所に流れ着き、
アルテミス連邦に発見され、
特殊部隊に編入されるまでが、
断片的に映し出された。
最後に、守護者の声が静かに響いた。
「エテルリア王族の血は、
エーテル粒子と強く結びついています。
姫であるあなたは、その最後の継承者。
大共鳴で暴走した粒子を鎮め、
この回廊を安定させる鍵……
それが、あなたなのです」
映像が消え、
部屋に静寂が戻った。
エリスは長い間、無言だった。
やがて、震える声で言った。
「……私、王族の……姫だったんだ……
お姉ちゃんは、私を守るために……
自分を犠牲にして……」
エコーが優しく声をかけた。
「エリス。
お前はもう、過去の姫じゃない。
今は、ナイトメアのエリスだ。
どうしたい?」
エリスはアルカナ・リンクの操縦桿を強く握り、
ゆっくりと答えた。
「……知りたい。
もっと。
お姉ちゃんが今、どんな気持ちでいるのか……
そして、私に何ができるのか……」
守護者が静かに言った。
「ならば、
さらに奥の『王族の間』へ。
そこに、最後の記録が残されています。
ただし……
そこは、粒子暴走の中心地。
覚悟が必要でしょう」
ガイルが低く唸った。
「ますます面倒くさくなってきたな……
エリスちゃん、どうする?」
エリスは少し迷った後、
はっきりとした声で言った。
「……行く。
みんなと一緒に。
私……自分の過去と、向き合いたい」
エコーは静かに頷いた。
「わかった。
だが、絶対に無理はするな。
お前が危険なら、俺が止める」
四機は、再び守護者に導かれ、
紫の回廊のさらに深い闇へと進んでいった。
エリスは心の中で、
静かに呼びかけた。
(お姉ちゃん……
ルル……
もう少し、待ってて……)
紫の粒子が、
まるでエリスの決意に応えるように、
優しく輝いていた




