姉妹
紫の粒子が広場全体を包み込み、
古代の幻影が現実と重なり始めた。
エリスはアルカナ・リンクのコックピット内で、
激しい頭痛とともに目を閉じた。
守護者の声が、静かに、しかし深く響く。
「姫よ……
あなたの記憶の欠片を、今、見せて差し上げましょう。
私の視点から……大共鳴のあの時を」
——世界が切り替わった。
エリスは、自分が「見ている」視点が、
守護者であることを理解した。
紫の光が空を埋め尽くし、
エテルリアの街が崩壊していく。
叫び声と爆音が響く中、
守護者は王族の避難路を必死に守っていた。
「姫! こちらです!」
守護者の視線の先には、
幼いエリスと、
少し年上の少女が手をつないで走っていた。
年上の少女——銀色の短髪に青みがかった瞳。
エリスは息を飲んだ。
(……ルル……?)
幼いエリスが泣きながら叫ぶ。
「お姉ちゃん……怖いよ……!
おうちが……壊れちゃう……!」
ルルは妹の手を強く握り、
必死に走りながら答えた。
「大丈夫……エリス。
お姉ちゃんが守るから……
絶対に離さないで!」
守護者は二人の前に立ち、
巨大な盾で崩れ落ちる天井の破片を防いだ。
紫の粒子が暴走し、
周囲の建物が次々と崩壊していく。
「王女様方!
この先の粒子保存装置へ!
そこから脱出可能です!」
ルルはエリスを抱きかかえ、
守護者の後を必死に追いかけた。
二人はようやく粒子保存装置の部屋に辿り着いた。
装置は淡い紫の光を放ち、
緊急脱出用のカプセルが二つだけ残されていた。
守護者が急いで言った。
「時間がない!
二人とも、カプセルへ!
この装置で、未来へ飛ばします!
姫……どうか生き延びて……
エテルリアの希望となってください!」
ルルはエリスを一つのカプセルに押し込み、
自分で隣のカプセルに入ろうとした。
しかし——
装置の出力が限界を迎え、
光が不安定に揺らぎ始めた。
ルルは一瞬、迷った。
そして、妹のカプセルを強く抱きしめ、
自分のカプセルを諦めた。
「エリス……
お姉ちゃんはここに残る。
あなただけでも……生きて……」
エリスが泣きながら叫んだ。
「お姉ちゃん! いっしょに行こうよ!
置いていかないで……!」
ルルは妹の頰に優しく触れ、
涙を堪えて微笑んだ。
「ごめんね……
お姉ちゃんは、
あなたを守るために……ここにいる。
エリス……生きて。
いつか、きっと会えるから……」
カプセルが閉じ、
紫の光が爆発的に広がった。
エリスはカプセルの中で、
ルルの姿が遠ざかっていくのを、
ただ見つめていた。
——幻影が途切れた。
エリスはコックピット内で、
大きく息を荒げていた。
頰に涙が伝っている。
「……お姉ちゃん……
ルル……
私……置いていかれたんじゃなくて……
守ってもらったんだ……」
守護者の声が、再び静かに響いた。
「その後……
あなたの姉は、脱出装置の暴走で粒子に飲み込まれ、
記憶を失った状態で現代に流れ着きました。
アルテミス連邦に保護され、
特殊部隊に編入された……
それが、今のルルです。
彼女は今も、あなたを守るために戦っています。
ただ、連邦に家族を人質に取られ、
自由に動けないでいる……」
エリスは震える声で言った。
「……ルル……
お姉ちゃんが……ずっと、私を守ってくれてた……
私、知らなかった……」
エコーが優しく呼びかけた。
「エリス……
大丈夫か?
もう少し休むか?」
エリスはゆっくりと首を振り、
アルカナ・リンクの操縦桿を握り直した。
「……大丈夫。
もっと……知りたい。
私の過去も……
お姉ちゃんのことも……」
守護者が静かに言った。
「ならば、
さらに奥へ……
王族の記録室へ案内しましょう。
そこに、あなたの真実が眠っています」
紫の粒子が再び渦を巻き、
守護者はゆっくりと歩き始めた。
エリスは涙を拭い、
静かに決意を固めた。
「お姉ちゃん……
待ってて。
私、今度は……私が守る番だから……」
紫の回廊の奥で、
失われた姉妹の物語が、
静かに動き始めていた




