ご帰還
紫の回廊の奥深く、
巨大な地下空間が突然開けた。
そこは、ただの遺跡ではなかった。
崩れかけた高層の建造物。
そして中央に広がる広大な広場——
かつての地下都市エテルリアの中心部が、
紫の粒子に包まれて静かに息づいていた。
エコーたちはその光景に息を飲んだ。
「これは……本当に、ひとつの都市だったんだ……」
エコーが低く呟いた瞬間、
広場の中央から、重く響く足音が聞こえてきた。
地面が微かに震え、
紫の粒子が渦を巻いて集まる。
やがて、
その中心から一機の機体がゆっくりと姿を現した。
全高は約11.5mの中量級。
左手に巨大な盾、右手に長大な槍を構えた、
古代の騎士を思わせるシルエット。
機体は淡い紫と銀で彩られ、
胸部には古い紋章のような粒子回路が輝いている。
機体はゆっくりと歩み寄り、
ナイトメアの四機の前に立ち止まった。
通信が開かれた。
低く、荘厳な男性の声が響く。
「ようこそ……
失われた血筋の者たちよ。
私はこのエテルリアの最後の守護者、
『ガーディアン・オブ・エテル』と名乗る者だ」
守護者は槍を軽く地面に突き、
盾を胸に当てて恭しく頭を垂れた。
そして、
その視線はまっすぐにアルカナ・リンクに向けられた。
「エリス……
いや、
エテルリアの第十三王女、エリス・ヴァルハラ。
お帰りなさい、姫。
長い間……お待ちしておりました」
その瞬間、
エリスはコックピット内で激しく息を飲んだ。
「え……?」
アルカナ・リンクの粒子が激しく反応し、
機体全体が青紫の光を強く放った。
エリスの頭の中に、
断片的な映像が洪水のように流れ込んできた。
白い大理石の宮殿。
紫の粒子でできた光の玉座。
幼い自分が、優しい女性に手を引かれている姿——
エリスは頭を抱え、
苦しげに声を漏らした。
「……姫……?
私……そんな……
違う……私はE13で……
失敗作で……」
守護者は穏やかだが、確信に満ちた声で続けた。
「あなたはエテルリア最後の王族の血を引く者。
大共鳴の際に、粒子保存装置に封じられ、
遥か未来に送られた……
その記憶は、まだ封じられたままですが、
ここにいる限り、
あなたは必ず思い出すでしょう。
姫よ、どうかこのエテルリアの遺志を——」
エコーが即座に割り込んだ。
「待て。
エリスは俺たちの仲間だ。
勝手に姫などと呼ぶな。
お前は何者だ?
何の目的でエリスを呼んだ?」
守護者は槍を軽く構え直し、
静かに答えた。
「目的はただ一つ。
王女の帰還と、
エテルリアの復活。
……そして、暴走したエーテル粒子の鎮静。
姫がいなければ、この回廊は永遠に暴走し続け、
やがて大陸全体を飲み込むでしょう」
ガイルが低く唸った。
「都合のいい話だな……
エリスちゃんを勝手に姫扱いして、
何をさせようってんだ?」
エリスはコックピット内で震えながら、
しかしはっきりと言った。
「……私、わからない……
でも……この場所が、
私を呼んでいるのは本当……
エコー……どうしたらいい……?」
エコーはアルカナ・リンクをじっと見つめ、
静かに決断を下した。
「話は聞く。
だが、エリスを勝手に連れて行くことは許さない。
お前が本当に守護者なら、
まずは証明してみせろ」
守護者はゆっくりと盾を下げ、
槍の先を天井に向けた。
「わかりました。
では……まずは、
姫の記憶の欠片をお見せしましょう」
紫の粒子が一気に膨れ上がり、
広場全体が古代の幻影で満たされ始めた。
エリスはコックピットの中で、
自分の過去の断片に、
再び飲み込まれようとしていた




