潜入開始と壁
ノヴァリア大陸の夜は、灰色の雲に覆われていた。
アルテミス連邦の技術都市「アルテミシア」は、
遠くから見ても圧倒的な存在感を放っていた。
高層の研究タワー群がネオンで輝き、
軍事施設のサーチライトが空を規則的に掃いていた。
ここは連邦の心臓部——
最先端のエネルギー技術と、ヴォートの残党が隠れている可能性が高い場所だ。
エコーはファントム・クロノスを低空で飛ばし、
都市の外周を慎重に偵察していた。
コックピット内にはエリスが座り、
エコーの背中に寄りかかるようにして外の光景を見つめている。
「エリス……怖いか?」
エコーが静かに尋ねると、
少女は小さく首を振った。
「……少し。
でも、エコーがいるから、大丈夫」
エコーは機体をさらに低く降下させ、
廃墟となった旧工業地帯の陰に隠れた。
ここからが本格的な潜入ルートだ。
「ガイル、セラ、リナ。
俺はエリスと一緒に中央研究区画へ向かう。
お前たちは外周を固め、撤退ルートを確保してくれ」
ガイルの声が通信で返ってきた。
「了解!
俺のアイアン・フォートレスで、逃げ道はバッチリ確保するぜ。
エリスちゃん、気をつけろよ!」
セラが静かに言った。
「……高所から狙撃する。
異常があれば即座に伝える」
リナがデータパッドを操作しながら警告した。
「連邦のセキュリティは厳重よ。
特に中央研究区画は感覚共有監視システムが張り巡らされているはず。
エリスが粒子反応を示したら、すぐに気づかれる可能性があるわ」
エコーは頷き、
ファントム・クロノスをステルスモードに切り替えた。
重力制御で音もなく滑るように移動し、
研究区画の外壁に接近。
エリスを背負ったまま、換気ダクトから施設内部へ侵入した。
内部は白い廊下と無数の実験室が並んでいた。
エコーはエリスを抱きかかえ、
足音を殺して進む。
「エリス……静かに。
ここは敵の心臓部だ」
エリスはエコーの胸に顔を埋め、
小さな声で答えた。
「……うん。
私、頑張る」
二人が研究区画の奥へ進んだ頃、
最初の障害が現れた。
廊下の突き当たりに、
アルテミス連邦の特殊警備部隊が3機、待機していた。
中量級のエネルギー兵器搭載機で、
感覚共有システムを簡易的に搭載した最新型だ。
エコーは即座に機体を隠し、
エリスを背後に庇った。
「まずい……
警備が予想より厳重だ。
このままでは通り抜けられない」
エリスがエコーの背中で震えながら、
指先から青紫の粒子を少しだけ漏らした。
その粒子がファントム・クロノスに触れ、
機体のステルスフィールドが一瞬強化された。
エコーはそれを感じ取り、
小さく息を飲んだ。
「エリス……お前の力か?」
少女は怯えながらも、
はっきりと言った。
「私……隠れるの手伝う……」
エコーは決断した。
「わかった。
お前の力に頼る。
俺が道を切り開く」
ファントム・クロノスがステルスを最大にし、
エリスが粒子でフィールドを強化。
二人は警備機体の死角を縫うように移動しいている
しかし、部屋に入った瞬間、
警報が鳴り響いた。
「侵入者検知!
E13の反応を確認!
捕獲せよ!」
エコーはエリスを抱きかかえ、
ファントム・クロノスを再起動させた。
「ここまでか……」
だが、廊下の奥から、
さらに多くの警備機体が迫ってくる。
エリスはエコーの胸に顔を埋め、
震える声で言った。
「……エコー……ごめん……
私のせい……」
エコーは少女を強く抱きしめ、
静かに答えた。
「違う。
お前を守るのが、俺の役目だ。
彼なら……絶対にそう言う」
ファントム・クロノスが翼を展開し、
青白い粒子を噴射。
エコーはエリスを守りながら、
迫りくる敵に向かって突進した。
戦闘の火蓋が、
静かに切って落とされた




