エリスの願い
ノヴァリア大陸の仮拠点は、朝の光が差し込むと少しだけ明るく見えた。
エリスは簡易ベッドに座り、
エコーが持ってきた簡素な朝食を静かに食べていた。
青紫の粒子が、時折指先から漏れ出しては消える。
エコーは対面に座り、
少女の様子を静かに観察していた。
ここ数日、エリスは少しずつ笑うようになっていたが、
まだ夜は悪夢を見て目を覚ますことが多かった。
エリスがフォークを置いて、
小さな声で言った。
「……エコー」
「ん?」
エリスは少し恥ずかしそうに、
しかしはっきりと言った。
「私も……自分の機体が欲しい」
エコーは一瞬、動きを止めた。
予想外の言葉だった。
「自分の……機体?」
エリスは頷き、
指先で青紫の粒子を少しだけ浮かべた。
「エコーの機体に乗って戦うの、楽しかった。
でも……私も、自分で戦いたい。
みんなを守りたい。
エコーがいつも守ってくれるけど……
私も、強くなりたい」
エコーは静かに息を吐いた。
レオンならどう答えるだろうか——
そんな思いが頭をよぎる。
「……エリス。
お前はまだ、力のコントロールが不安定だ。
機体を作るのは簡単じゃない」
エリスはエコーの目を見つめ、
少しだけ声を強くした。
「わかってる。
でも……私、覚えてるんだ。
白い部屋で、針を刺されて……
『レオンを超えるために作られた』って言われたこと。
私、失敗作だって言われた。
でも……失敗作のままじゃ、いやだ」
エコーは少女の言葉に、胸を突かれた。
エリスはまだ記憶の大部分を失っているはずだったが、
断片的に蘇る過去が、彼女を駆り立てているようだった。
ガイルが工具を片手に近づいてきて、
会話を聞き、笑った。
「ほう……エリスちゃん、機体が欲しいのか。
面白いじゃねえか!
俺が作ってやるよ。
エーテル粒子を操れる機体……
面白くなりそうだぜ!」
リナがデータパッドを操作しながら言った。
「技術的には可能よ。
ただ、材料が足りない。
特に、エリス専用の神経接続回路と粒子制御ユニット……
アルテミス連邦の技術都市『アルテミシア』にしか揃わないはず」
セラが静かに言った。
「……潜入が必要」
エコーは皆を見回し、
リーダーとして決断した。
「わかった。
エリス、お前の機体を作る。
同時に、お前の記憶を取り戻す手がかりも探す。
アルテミス連邦の技術都市に潜入する」
エリスはエコーの言葉を聞き、
小さな笑顔を見せた。
「……ありがとう、エコー。
私、頑張る」
エコーは少女の頭を優しく撫で、
心の中で誓った。
(レオン……お前がいない今、
この子の願いを叶えるのも、俺の役目だ)
仮拠点の外では、
灰色の風が静かに吹いていた。
ノヴァリア大陸の空に、
新たな悪夢の影が、ゆっくりと広がり始めていた




