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XRX-03:灰色の咆哮  作者: 装機伊織
第4期
40/65

蒼い記憶の味

ノヴァリア大陸の観光名所「蒼の遺跡」周辺は、

アルテミス連邦が整備した比較的平和なエリアだった。

巨大な青い結晶が地面から突き出た風景は、

灰色の旧大陸とはまるで違う、幻想的な美しさを持っていた。


エコーはファントム・クロノスを低空で飛ばし、

エリスを連れて観光を続けていた。

「偵察」と称しての外出だったが、

実際はエリスに少しでも安心感を与えるための時間だった。


エリスはコックピット内で窓に顔をくっつけ、

目を輝かせていた。

「エコー……あれ、きれい……

青いのが、たくさん……」


エコーは静かに微笑んだ。

「そうだな。

もう少し回ったら、食事にしよう。

ここに有名な食べ物があるらしい」


遺跡の近くにある小さな露店街で、

エコーは機体を降り、エリスと一緒に歩いた。

ヴォルテックの支援で手に入れた簡易変装服を着て、

目立たないように観光客に紛れる。


露店で売られていたのは、

ノヴァリア大陸の名物「蒼の海鮮丼」だった。

新鮮な青い貝と魚介を、特殊な香草と一緒にご飯にのせたもの。

エコーは二人分を買い、

遺跡のベンチに座って食べ始めた。


エリスは最初、恐る恐る箸を動かしていたが、

一口食べた瞬間、目を見開いた。


「……おいしい……!」


少女は夢中で食べ始めた。

頰を少し膨らませ、

目を細めて味わう姿は、

まるで普通の子供のようだった。


エコーは箸を止め、

そんなエリスを静かに見つめた。


(……この笑顔……)


フラッシュバックが、静かに脳裏をよぎる。


昔の記憶——

まだブラッド・クロウにいた頃。

エコーには、年の離れた妹がいた。

名前は「リリア」。

瘦せた体で、いつも笑顔を絶やさなかった。

エコーが任務から帰ると、

小さな手で「お兄ちゃん、おかえり」と抱きついてきた。


だが、ある日——

企業戦争の巻き添えで、リリアは命を落とした。

エコーはその時、冷静に「生存率が低い」と判断し、

妹を助けに行かなかった。

それ以来、彼は「影」として生きることを選んだ。

感情を殺し、計算だけで動くようになった。


エコーは箸を握る手に力を込めた。

(リリア……お前も、こうやって笑っていたな……)


エリスが顔を上げ、

口の周りを少し汚しながら言った。

「エコー……おいしいよ。

一緒に食べて」


エコーは我に返り、

小さく微笑んだ。

「ああ……いただく」


二人は並んで海鮮丼を食べた。

エリスは時折、笑顔を見せ、

エコーはその笑顔を、静かに胸に刻んだ。


食事が終わった後、

エリスはエコーの袖を軽く掴んだ。

「……エコー。

私、もっとここにいたい」


エコーは少女の頭を優しく撫でた。

「また来よう。

今は……帰る時間だ」


ファントム・クロノスで帰路につく途中、

エコーは心の中で呟いた。


(リリア……お前がいなくなってから、

俺は影に隠れていた。

だが、今……この子を守ることで、

少しだけ、お前を思い出すことができる)


仮拠点に戻ると、

ガイルが笑顔で迎えた。

「どうだった? 観光は」


エコーは静かに答えた。

「……少し、いい時間だった」


エリスはベッドに座り、

満足げに目を細めていた。

その瞳には、青紫の粒子が優しく瞬いていた。


エコーは窓の外の灰色の空を見上げ、

静かに誓った。


ノヴァリア大陸の風が、

静かに二人の影を包み込んでいた。

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