蒼色観光
ナイトメアの仮拠点は、ノヴァリア大陸の廃墟に静かに溶け込んでいた。
エリスはここに来てから数日、
ほとんど言葉を話さず、ベッドの上で膝を抱えて過ごすことが多かった。
時折、青紫の粒子が指先から漏れ、
彼女自身もそれを怖がっている様子だった。
エコーはそんなエリスを見て、
静かに決意した。
「少し、外に出よう。
偵察と称して……お前が気になっていた場所へ連れて行ってやる」
エリスは目を丸くした。
「……本当に?」
「本当だ。
アルテミス連邦の観光名所だという、
『蒼の遺跡』という場所がある。
お前が興味を持っていた場所だろ?」
エリスは小さく頷いた。
その瞳に、初めての明るい光が宿った。
エコーはファントム・クロノスを起動し、
エリスをコックピット内に乗せた。
「みんなには偵察と言っておく。
短時間で戻る」
ガイルが工具を片手に笑った。
「気をつけろよ、エコー。
お前がリーダーなんだからな」
リナがデータパッドを渡しながら言った。
「何かあったらすぐに連絡して。
エリスの粒子反応も、気をつけて観察して」
セラは無言で頷き、
静かに見送った。
ファントム・クロノスは灰色の空を切り裂き、
ノヴァリア大陸の西部にある『蒼の遺跡』へと向かった。
遺跡はアルテミス連邦が観光資源として整備した場所で、
巨大な青い結晶が地面から突き出た古代の遺跡群だった。
到着すると、エリスはコックピットから外を眺め、
珍しく声を弾ませた。
「きれい……
青い……」
エコーは機体を低空で飛ばし、
遺跡の周囲をゆっくりと巡った。
エリスは窓に顔をくっつけ、
目を輝かせていた。
「エコー……ありがとう。
ここ、来てみたかった」
エコーは小さく微笑んだ。
「安心しろ。
俺がいる限り、お前は安全だ」
遺跡の観光エリアで、
地元のガイドが観光客に説明をしている声が聞こえてきた。
エコーは機体のセンサーで会話を拾った。
「この蒼の結晶は、昔からここにあったんですよ。
最近、地下で紫色の鉱脈が見つかったという噂がありますが……
まだ公式には発表されていません。
『エーテル』と呼ばれるらしいですが、
触れると不思議な力が宿るそうです」
エコーの瞳がわずかに細くなった。
(エーテル……?
ここに、そんなものが……)
エリスもその言葉を聞き、
自分の指先を見つめた。
青紫の粒子が、微かに瞬いている。
「エリス……お前も、感じるのか?」
少女は小さく頷いた。
「……なんか、呼んでる。
でも、怖い……」
エコーは機体を旋回させ、
遺跡を離れるルートを取った。
「もう十分だ。
帰ろう。
お前が安心できるように、俺がいる」
帰り道、エリスはエコーの背中に寄りかかり、
小さな声で言った。
「エコー……
私、怖くないよ。
エコーがいてくれるから」
エコーは静かに答えた。
「ああ。
俺が守る。
レオンが目を覚ますまで……
そして、覚めた後も」
しかし、エコーの胸には、
「エーテル」という言葉が、
静かに、しかし確実に、刻み込まれていた。




