残党襲撃
輸送船は新大陸の港を離れ、ナイトメアが急遽構えた仮拠点へと向かっていた。
仮拠点はノヴァリア大陸の東部、廃墟となった旧工業区画の地下施設を改修したものだ。
ヴォルテックの支援で最低限の設備は整っていたが、
まだ完成とは程遠い状態だった。
エコーはファントム・クロノスで船の上空を飛行し、
周囲を警戒しながらエリスをコックピット内に匿っていた。
少女は膝を抱えて座り、静かに窓の外を見つめている。
時折、青紫の光が瞳の奥で微かに瞬く。
「エリス……怖いか?」
エコーが静かに尋ねると、
少女は小さく首を振った。
「……わからない。でも、暖かい」
その言葉に、エコーは胸の奥が少し疼いた。
レオンがいない今、自分が守らなければならない存在が増えたことを、
改めて実感した。
突然、センサーが反応した。
「敵影接近。
残党機体……6機。
先頭にリーダー格と思われる機体がいる」
エコーは即座に通信を開いた。
「ガイル、セラ、警戒。
船を守れ」
廃墟の谷間から、黒と銀の機体群が飛び出してきた。
ヴォートの残党。
その先頭に立つ機体は、中量級の指揮官機で、
胸部に大きなアンテナを備えていた。
通信が開き、男の声が響く。
冷たく、計算高い声。
「ナイトメア……その娘をこちらに渡せ。
命だけは助けてやる」
エコーはファントム・クロノスを船の前に出し、
静かに答えた。
「断る。
彼女はもう、俺たちの保護下だ」
リーダー機が嘲るように笑った。
「愚かだな。
あの娘はヴォートの最終実験体。
アルテミス連邦も欲しがっている。
お前たちのような傭兵が守れると思うのか?」
戦闘が始まった。
残党機体が一斉に魚雷とエネルギー弾を放つ。
エコーは重力制御で急旋回し、
ジェネシスで先頭の2機を撃墜。
だが、敵の数は多く、船の側面に着弾が相次ぐ。
ガイルがアイアン・フォートレスで船を守りながら叫んだ。
「エコー! 数が多すぎる!
船が持たない!」
エコーはコックピット内で、
一瞬、自分に問いかけた。
(レオンなら……どうする?)
レオンの姿が脳裏に浮かぶ。
昏睡する前の、彼の静かな決意。
「俺たちは悪夢だ。
誰にも渡さない」
エコーは目を細めた。
「わかった……
俺も、悪夢として戦う」
その時、コックピット内の少女——エリスが、
小さな手を伸ばした。
「…痛い……」
少女の指先から、淡い青紫の粒子が漏れ出した。
粒子はファントム・クロノスの装甲に触れ、
機体全体に広がっていく。
エコーの目が見開かれた。
「これは……!」
粒子が機体の出力に干渉し、
クロノス・リアクターの効率が急上昇。
ファントム・クロノスの翼が強く輝き、
速度と機動性が一気に上がった。
エコーは即座に反応した。
「エリス……お前、こんな力を持っていたのか」
少女は怯えたまま、しかしはっきりと言った。
「守って……」
エコーは頷き、
機体を全速で敵陣に突っ込ませた。
ジェネシスが連続発射され、
残党機体を次々と撃墜。
粒子に強化された攻撃は、敵の予測を大きく超えていた。
リーダー機が慌てて後退を始めた。
「なんだこの力は……!
実験体が……覚醒したのか!?」
エコーは通信で叫んだ。
「みんな、船を守れ!
俺が敵を片付ける!」
ガイルとセラが船の防衛を固め、
エコーのファントム・クロノスが残党を一掃した。
最後にリーダー機をジェネシスで貫き、
戦闘は終了した。
船は無事に仮拠点へ到着。
エコーはエリスを抱きかかえて機体から降りた。
リナが駆け寄ってきた。
「エコー……あの粒子は?
少女の能力……?」
エコーは少女の頭を優しく撫でながら答えた。
「わからない。
だが……彼女は、俺たちが守るべき存在だ。
ここに連れて帰る」
エリスはエコーの胸に顔を埋め、
小さな声で呟いた。
「……ありがとう……エコー」
エコーは静かに空を見上げた。
レオンに似た、静かな瞳を持つ少女。
彼女を巡る影が、
これからさらに深くなることを、
彼は予感していた




