朧影の少女
シルバー・ホライゾンは、灰色の波を切り裂き、ノヴァリア大陸の港に到着した。
新大陸の空は、旧大陸より少しだけ青みが強く、
巨大な遺跡の残骸が地平線にそびえていた。
グリム商会の護衛対象であるアルテミス連邦の技術者たちは、
緊張した面持ちで船を降りた。
エコーはファントム・クロノスを港の倉庫近くに待機させ、
周囲を警戒していた。
ガイルとセラも機体で護衛態勢を取り、
リナがデータパッドで港の治安情報を確認する。
「ここがノヴァリア大陸……
思ったより、活気があるな」
エコーが呟いたその時、
港の奥から銃声と爆発音が響いた。
「襲撃だ!」
技術者たちが慌てて身を隠す中、
黒い装甲の機体群が港に乱入してきた。
アルテミス連邦の反政府勢力か、
それともヴォートの残党か——判断がつかない。
ガイルがアイアン・フォートレスで即座に前に出た。
「俺が盾になる! みんな、技術者を守れ!」
セラのシャドウ・ストライカーが高所から狙撃を始め、
エコーのファントム・クロノスが上空からジェネシスで援護射撃。
戦闘は一瞬で激化した。
その混乱の中で、
技術者の一人がエコーの通信に叫んだ。
「エコー! 頼む!
E13を……あの少女を助けてくれ!
彼女は俺たちの実験体じゃない……ただの子供だ!
ヴォートの生き残りが彼女を狙ってる!」
エコーは機体を旋回させ、
港の倉庫街に目を向けた。
そこに、ボロボロの服を着た幼い少女が、
瓦礫の陰に怯えて隠れていた。
少女は記憶を失っているようで、
ただ震えながら周囲を見回している。
その瞳には、奇妙な青紫の光が微かに宿っていた。
未知の技術が埋め込まれているような——不思議な輝き。
エコーは即座に判断した。
「了解した。
彼女を保護する」
ファントム・クロノスが急降下。
重力制御で少女の近くに着地し、
コックピットハッチを開けて少女を機体内部に引き入れる。
少女は怯えたまま、エコーの機体の中で小さく縮こまった。
「大丈夫だ。
俺たちが守る」
戦闘はナイトメアの優勢で終わり、
襲撃者たちは撤退した。
技術者たちは安堵の息を吐き、
エコーに深く頭を下げた。
「ありがとう……E13を、連れて行ってくれ。
彼女はここにいては危ない。
アルテミス連邦も、ヴォートの残党も、彼女を欲しがっている」
エコーは少女を匿うことを決めた。
「わかった。
彼女はナイトメアの拠点に連れて帰る。
新大陸に仮の拠点を構え、守る」
船に戻る途中、
エコーはコックピット内で少女に話しかけた。
「名前は……E13か?」
少女は小さく頷き、
震える声で答えた。
「……E13……」
エコーは静かに言った。
「それでは味気ないな。
……エリス。
これからは、エリスと呼ぼう」
少女はエコーの言葉を繰り返すように、
小さな声で呟いた。
「エリス……」
その時、エコーは少女の瞳を見て、
胸に小さな衝撃を受けた。
(この目……レオンに似ている)
青みがかった瞳の奥に、
静かで、しかし強い影が宿っていた。
まるで、レオンが昏睡の中で見ている夢のような——
そんな目だった。
輸送船は新大陸の港を離れ、
ナイトメアが新たに構えた仮拠点へと向かった。
エリスを抱えたエコーは、
静かに空を見つめていた。
「レオン……お前がいない今、
俺が守るべきものが、また一つ増えた」
灰色の海を越え、
新たな物語が、静かに動き始めていた




