血の鎖
ヴォート本社の最深部、地下研究所。
カイは一人で長い廊下を歩いていた。
マスクは外し、
瞳は赤く輝き、
手に握った拳銃の銀色が、蛍光灯に冷たく反射する。
警備兵はすでに全員倒されていた。
ファイブの他のメンバーはカイの「意志」に従い、
本社全体を掌握していた。
今、誰もカイを止める者はいない。
研究所の最奥、
「Dr. Alan専用ラボ」の扉が開く。
部屋の中は、白い照明と無数のモニターで満たされていた。
中央の椅子に、老いた男が座っている。
白髪混じりの髪、眼鏡、
白衣の袖から伸びる細い腕。
ドクター・アラン。
カイの「生みの親」。
いやカイを破壊した男が正しいだろう
アランはゆっくりと振り返り、
カイを見て小さく微笑んだ。
「おかえり、カイ。
……いや、ヴォイド。
CEO就任、おめでとう」
カイは拳銃を構えた。
声は低く、震えていた。
「お前が……今の俺を作った」
その瞬間、カイの視界が揺れた。
記憶が、痛みのように脳裏を襲う。
――暗闇の中、崩落した施設の瓦礫。
ストーム・ランナーのコックピットが潰れ、
カイの体は血まみれで動かない。
痛みと寒さだけが、全身を支配していた。
「隊長……みんな……」
意識が薄れる中、
遠くからドローンのエンジン音が近づいてきた。
ヴォートの回収ドローン。
機械アームがカイの体を掴み、
冷たい金属の床に運び込む。
ラボの白い天井。
無数のモニターと、針の音。
アランが白衣を着て、カイの顔を覗き込む。
「久しぶりだね、カイ。
君はやはり特別だ。
私の実験に、ぴったりだよ」
カイは朦朧とした意識の中で、
かすれた声で呟いた。
「……隊長に……認められたかった……」
アランは優しく微笑み、
カイの額に手を置いた。
「もう心配ない。
ここでは、君はいつも認められる。
みんなが、君の家族だ」
針が神経ポートに刺さる。
痛みが爆発し、
記憶が少しずつ削られていく。
隊長の声、仲間たちの笑顔、
すべてが遠ざかり、
代わりに「特別だ」という言葉だけが、
繰り返し響く。
――記憶が途切れる。
カイの指が、引き金にかかる。
「お前は……俺に、痛みしか与えなかった」
アランは立ち上がり、
ゆっくりと手を広げた。
「痛みは強さだ。
君は今、世界最強のファイブのリーダー
ヴォートのCEO
私の意志を継ぐ、完璧な存在になった」
カイの指が震えた。
拳銃の先が、わずかに下がる
だが、次の瞬間――
パンッ!
銃声が響いた。
アランの胸に赤い穴が開き、
老いた男はゆっくりと膝をついた。
血が白い床に広がる。
アランは倒れながら、
最後に微笑んだ。
「……よくやった、
君は……もう、私を超えた」
カイは拳銃を握りしめたまま、
アランの体を見下ろした。
瞳から、涙は出なかった。
ただ、胸の奥で、
孤独感と執着が、
さらに深く、黒く、広がった
「……もう、なにもいらない」
カイは拳銃をポケットにしまい、
レオン、エコー、ガイル、リナ、セラ……
皆の顔が、静かに浮かぶ
カイはゆっくりと微笑んだ。
その笑みは、かつての面影を完全に失っていた。
「隊長……みんな……
俺は、もうお前たちの仲間じゃない。
俺はヴォートのCEOだ。
ファイブのリーダーだ。
俺は……認められた。
お前たちに、必要とされた。
だから……」
声が、低く響く。
「次は、お前たちを俺の家族にする。
泥の人形じゃなく、
俺の『血』にする。
待ってろよ、レオン」
ヴォートの本社では、
カイのCEO宣言が社内放送で流れる。
社員たちは震えながら、
新しいリーダーを受け入れるしかなかった
ナイトメアのハンガーで、
レオンはホログラムを見つめたままだった、
「……カイ」
虚空の痛みのような痛みが心を刺す。
ヴォートの闇は、
カイの手によって
完全に生まれ変わっていた




