単独の影と
ヴォートの撮影が終わったあとハンガーは、戦闘の傷跡で埋め尽くされていた。
ファイブとの戦闘から帰還した機体は、どれもボロボロだった。
XRX-03の左肩は抉れ、ヴォイド・リーパーのプラズマ回路が焼け焦げている。
アイアン・フォートレスのシールドはひび割れ、ガトリング砲が半分機能停止。
シャドウ・ストライカーのステルスフィールド発生装置は完全に破損し、
ファントム・クロノスの翼も損傷で展開が不安定だ。
ガイルが工具を握りしめ、
「くそ……全部直すのに最低3日はかかるぜ」
と唸りながら整備を続けている。
リナはデータパッドで損傷ログを解析し、
セラは無言で機体のセンサーアレイを拭いている。
レオンは壁に寄りかかり、左腕を押さえていた。
虚空の痛みが、胸を強く締めつける。
ファイブの予測攻撃は、ナイトメアの動きをすべて読んでいた。
ヴォートのカメラが、すべてを学習していたのだ。
エコーはファントム・クロノスのドックで、
唯一、軽傷で済んだ機体を眺めていた。
翼の損傷は最小限で、クロノス・リアクターはまだフル稼働可能だ。
エコーは静かに言った。
「俺だけ動ける。
ヴォートの研究所と噂の施設へ、偵察に行く」
レオンが顔を上げる。
「一人でか?」
エコーは頷いた。
「ファントム・クロノスなら、単独で潜入できる。
ヴォートの本拠地に近い廃棄区画だ。
ファイブの感覚共有の秘密……そこに答えがあるはずだ」
ガイルが工具を置いて立ち上がる。
「待てよ、エコー。
お前一人じゃ危ねえだろ」
エコーは小さく笑った。
「俺は影だ。
影は一人で十分」
レオンはしばらく黙っていたが、
ゆっくり頷いた。
「……行け。
生きて帰れ、エコー」
ファントム・クロノスが静かに浮上。
翼が展開し、青白い重力場が機体を包む。
エコーはコックピットで呟いた。
「カイ……お前の分まで、見てくる」
機体はハンガーを抜け、灰色の空へ消えた。
廃棄区画は、崩落したビル群が立ち並ぶ死の街だった。
エコーは低空飛行で施設の外周を回り、
センサーで警備の隙を探る。
施設は表向き「広告撮影スタジオ」として登録されているが、
周囲に異常なセキュリティドローンが配置され、
地下への隠し入り口が確認できた。
エコーは機体をステルスモードに切り替え、
重力制御で音もなく接近。
隠し入り口の警備カメラをジェネシスで無力化し、
内部へ潜入した。
施設の地下は、予想以上に広かった。
撮影で機体を運び込むためだろうか。
白い廊下に、無数の実験室が並ぶ。
ガラス越しに、被験者のベッドが見える。
神経ポートに接続された人影が、静かに横たわっている。
エコーは息を潜め、機体を降りようとした時――
背後から、低いエンジン音が響いた。
ハウンド・プライムのプラズマ・ランスが、エコーの機体を狙う。
パイロットのリ・スターの熱い声が通信に響く。
「ヴォートの施設に忍び込むとはな!
お前、ナイトメアの仲間か?」
エコーは即座に機体を旋回させ、ジェネシスをチャージ。
「リ・スター……ヴォートを偵察に来たのか」
リ・スターの機体がランスを構える。
「誰かと思えば元知将か。
俺もヴォートの噂を追ってたんだ。
人体実験の証拠を掴めば、ヴォルテックに報告できる。
お前らナイトメアも、同じ目的か?」
エコーは短く答えた。
「そうだ。
今は戦う時じゃない。
ランスを降ろしてくれ」
だが、リ・スターは熱く笑った。
「悪いな。
まずは元智将の実力が本物か、確かめさせてもらうぜ!」
ハウンド・プライムが突進。
プラズマ・ランスがファントム・クロノスを狙う。
エコーは重力制御で急旋回し、ジェネシスで牽制射撃。
二機の戦闘が始まった瞬間――
施設の警報が鳴り響いた。
ヴォートの警備部隊が、廊下の奥から現れる。
中量級の量産機体が10機以上。
エネルギー兵器を構え、ファイブの支援機と思われる小型ドローンが周囲を囲む。
リ・スターが叫んだ。
「ちっ……ヴォートの警備か!
おい、元智将!
今は共闘だ!」
エコーは頷いた。
「今は悪夢の影になった!
俺が上から援護する。
お前は正面を押し通せ」
ファントム・クロノスが浮上し、ジェネシスで警備機体を一掃。
ハウンド・プライムがランスを振り回し、
敵の群れに突っ込む。
二人の連携は、予想以上に息が合っていた。
警備部隊のエネルギー弾が飛び交う中、
エコーは重力制御で急降下し、
ジェネシスを連続発射。
リ・スターがシールドを張り、エネルギー波を防ぐ。
「熱いぜ、エコー!
お前、意外とやるな!」
エコーは小さく笑った。
「熱いのはお前だ。
俺は……影で支えるだけ」
警備部隊が次々と倒れ、
施設の奥へ進む道が開けた。
エコーとリ・スターは機体を並べ、
同時に通信で言った。
「悪夢と熱で……ぶっ潰す」




