モデル
ハンガーの空気が、いつになく重かった。
ネクサスからの最新依頼が届いたのは、
ヴォートとの初撮影任務からわずか2日後の朝だった。
ホログラムに映るミリア・ヴェインの笑顔は、変わらず完璧だ。
「ナイトメアの皆さん、いつもお疲れ様です。
今回の依頼は、偵察任務です。
対象はヴォルテック・インダストリーの前線補給基地。
最近、ヴォルテックが異常な物量増強をしているとの情報が入りました。
詳細なデータ収集をお願いします」
レオンはホログラムを睨みながら言った。
「偵察だけか。
配信は?」
ミリアは少し首を傾げて笑う。
「今回は偵察なので、カメラはオフにします。
ヴォートとしても、機密性の高い任務は控えめに扱いますから。
ただ……帰還後に口頭報告をいただければ、それで十分です」
エコーが静かに言った。
「口頭報告か。
データ共有の条項は適用されない、ということだな」
ミリアの笑顔が一瞬固まるが、すぐに元に戻る。
「ええ、今回は特別に。
ネクサスとしても、ヴォルテックの動きは気になりますから。
ご協力、よろしくお願いしますね」
通信が切れると、ハンガーに沈黙が落ちた。
ガイルが舌打ちした。
「ヴォートはカメラオフにした途端、態度が変わったな。
ネクサスも、ヴォルテックを警戒してるってことか」
リナがデータパッドを操作しながら言った。
「ヴォルテックの補給基地は東部荒野の地下施設よ」
レオンは立ち上がった。
「行く。
ヴォルテックの動きを探る。
そして……ネクサスに、俺たちの価値を見せてやる」
出撃準備は迅速だった。
XRX-03、ファントム・クロノス、アイアン・フォートレス、シャドウ・ストライカー
輸送機が離陸し、灰色の空を東へ向かう。
機内の通信で、味方の熱い声が響いた。
「よお、ナイトメア!
連絡に来たぜ。
補給基地の異常増強、確かにヤバい。
俺たちが外周を抑えてるから、
お前らで内部に潜入してくれ! 」
レオンは短く答えた。
「了解。
俺たちは偵察だ。
地上を守るのは、頼んだぞ」
施設に到着したのは、砂嵐が巻き上がる午後だった。
地下入り口は味方の機体が固め、
ヴォルテックの量産型機体が警備に立っている。
だが、内部の空気はいつもと違う。
補給物資が異常に積み上がっており、
機体の整備ラインがフル稼働している。
エコーがファントム・クロノスで上空からスキャンした。
「異常だ。
通常の補給量の3倍以上。
しかも、新型の粒子加速弾が大量に搬入されてる」
レオンはXRX-03で入り口に近づき、
ヴォルテックの警備兵に通信を送った。
「ナイトメアだ。
ネクサスからの偵察任務で来た。
内部を見せろ」
ヴォルテックの担当者が、渋々ゲートを開ける。
内部は、予想以上に活気づいていた。
機体が次々と出荷準備され、
整備士たちが慌ただしく動いている。
ガイルがアイアン・フォートレスで周囲を警戒しながら呟いた。
「こりゃ、戦争準備じゃねえか。
ヴォルテック、何を企んでるんだ?」
セラがシャドウ・ストライカーで高所からスキャン。
「……補給ルートに、アークライトの機影がある。
提携……?」
エコーが冷静に言った。
「可能性はある。
ヴォルテックが実弾主体、アークライトがエネルギー兵器。
両者が手を組めば、ネクサスは脅威になる」
レオンは機体を止めた。
虚空の痛みが、左腕から胸へ広がる。
だが、彼はそれを抑え込み、静かに言った。
「偵察は完了だ。
データはネクサスに送る。
だが……俺たちは悪夢だ。
ネクサスが何を企もうと、ヴォルテックが何を隠そうと、
俺たちは俺たちのやり方で生きる」
輸送機が帰還ルートに入る。
灰色の空の下、
ハンガーに戻った機体たちは、
それぞれのドックに収まった。
レオンはコックピットから降り、
空いたカイの席に視線を向けた。
誰も座らないまま、そこにある。
エコーが近づき、静かに言った。
「ネクサスは俺たちを道具にしたい。
ヴォートは商品にしたい。
ヴォルテックは……まだわからない」
レオンは小さく笑った。
「なら、俺たちは悪夢のままだ。
誰にも使われない悪夢として、戦い続ける」
ハンガーの照明が、赤と青に揺れた。
次の依頼が来るまで、
静かな時間が流れる。




