66 学園祭の秋と密かなる石焼き芋屋台
「いらっしゃい、いらっしゃい! 熱々で甘い、極上の石焼き芋だよーっ!」
秋晴れが広がる陽菜の大学キャンパス。学園祭の熱気に包まれた模擬店エリアの一角で、陽菜の香ばしい声が響き渡っていた。
今回、陽菜が画策したのは特製石焼き芋の屋台。ねっとり甘い紅はるかとシルクスイートを、テトラ・アコードで鍛えた絶妙な火加減と、特注の極太石でじっくり低温焼きにした自信作だ。
そしてその隣で「石焼き芋、いかがですかーっ! すごく甘くて美味しいですよーっ!」と元気いっぱいに声を張っていたのは、いつもテトラの店先で世話になっているからと、助っ人に駆けつけてくれた獣人のミナだった。
「ねえ陽菜さん、私、売り子の上手さには自信があるんです! どんどん売っちゃいますよ!」
ふさふさの琥珀色の尾を左右に大きく振りながら笑顔で接客するミナ。しかし陽菜の心臓は朝からバクバクと鳴りっぱなしだった。
「う、うん! ミナちゃん、ありがとうね」
――うーん……でも……どうだろう。周りの学生たち、ミナちゃんの耳と尻尾を完全にクオリティが高過ぎるガチ勢のコスプレだと思い込んじゃってるよね? 心配のし過ぎかな。
キャンパスを行き交う学生たちは「うわ、あの人のケモ耳コスプレやばくない?」「本物みたいにぴくぴく動いてるんだけど! どんなからくり?」「めっちゃ可愛い! 一つ買っていこうよ!」と大盛り上がり。
――動いてるんじゃなくて本物の耳だから感情に合わせてぴくぴくしちゃってるんだよ!
陽菜はハラハラしながら冷や汗を拭っていたが、ミナの本物の笑顔と愛嬌、そしてなにより石焼き芋の圧倒的な美味さが重なり屋台は大盛況。蜜が溢れるほどあつあつで甘い焼き芋は、口コミであっという間に噂が広がり、用意していた百本の芋は午前中のうちに完売してしまったのだった。
「やったね、陽菜さん! 全部売り切れちゃいました!」
「う、うん! 本当にミナちゃんのおかげだよ。心臓が止まるかと思ったけどね」
「えっ?」
「ううん、なんでもないなんでもない」
片付けを手早く終えて売り上げの計算を済ませた二人は、午後から余裕を持って学園祭を見回ることにした。お礼を兼ねて陽菜はミナと一緒に学園祭の模擬店街や展示を散策し始める。
「わあっ! 陽菜さん、あっちでなにか美味しそうな丸いものが焼けてますよ!」
「あ、あれはたこ焼きだね。食べてみる?」
「はいっ! ぜひ!」
たこ焼きをはふはふと口に含み「熱っ! でも出汁が効いてて美味しい! ネギとマヨネーズとの相性も抜群です」と目を輝かせるミナ。クレープにタピオカ、学生たちのバンド演奏やダンスパフォーマンス。初めて見る日本の学園祭というお祭りの雰囲気に、ミナのふさふさの耳はあっちへ動き、こっちへ動きと大忙しだった。
「陽菜さんの通う学校って、こんなに賑やかで楽しいところなんですね! 美味しそうな食べ物がいっぱいで、みんなが笑顔で、なんだかテトラ・アコードに似ています!」
ミナが心底楽しそうに尻尾を振る姿を見て、陽菜もほっと胸を撫で下ろした。捕獲されたらどうしようなんて最初から無用の詮索だったのだ。ここもテトラ・アコードなのだから。
「あはは、そうだね。美味しいものがあって、みんなが笑顔になれる場所って、どこでも一緒なんだよ」
秋の澄み渡る空の下、焼きたての芋の甘い余韻と、賑やかな歓声がキャンパスいっぱいに満ちていた。




