51 白銀の騎士と可愛いの嵐・プリン・コスプレ・クライシス
「みんな、出来たわよーっ! 今日の試作品、理恵特製の極上とろとろ和三盆プリン!」
午後のテトラ・アコード。
店内に理恵の弾んだ声が響くとテーブル席を占領していた陽菜の大学の友人たち――女子大生グループから「きゃー!」とか「待ってました!」と黄色い歓声が上がった。卵黄の濃厚なコクと和三盆糖のやわらかな甘み。そして極限まで滑らかに仕上げた理恵渾身のプリンがテーブルに並べられた――まさにその時である。
――カラン、カラン。
重厚な装備で入店してきたのは白銀の甲冑を纏った騎士エルザだった。彼女は店内の甘い香りと女子大生たちが囲む黄色い謎の物体に目を留めて足を止めた。
「むむむ……なんだその黄色く揺れる可憐な構造体は? まるでスライム系の幼生のようだが、甘く芳しい魔力を放っているな」
その瞬間、女子大生たちの目が輝いた。
「えっ……待って、やば!」
「クオリティ高過ぎ! 甲冑の本物感凄過ぎるんだけど!」
「スライム系の幼生って言った? 台詞回しもガチ勢じゃん! どこでレイヤーさん呼んだの陽菜ちゃん!」
「あ、いや……この人はレイヤーさんっていうか本物の――」
陽菜は慌ててフォローに入ろうとするが、女子大生たちの勢いは止まらない。
「お姉さん! そのコスプレ、なんの作品ですか? 聖騎士系オリジナルですか?」
「腰の剣、金属製? 重くないんですか? てか、前髪のシャープさ超綺麗! 撮影会とかやってないんですか?」
エルザは矢継ぎ早に投げかけられる謎の言語に完全に大狼狽した。
「こ、こすぷれ? れいやー? なにを言っているのだ貴様たちは! 私は王立騎士団、第三部隊長のエルザだ! この腰の剣は数多の魔獣を斬り伏せてきた我が相棒『銀翼の剣』だ! 撮影会などという儀式は知らん!」
「きゃーっ! 役作りが徹底し過ぎてるーっ!」
「銀翼の剣、厨二病っぽくて最高!」
「お姉さん、写真撮っていいですか? ピースとかできます?」
「ピ、ピース? あの、それぞれの手で二本の指を立てる謎の降伏ポーズか? 破廉恥な! 騎士がそのような軽薄な真似をできるか!」
「なんでアヘ顔ダブルピースのほうを想像したの!」
「あははははは、面白過ぎる!」
「ねえねえ、一緒に食べませんか?」
「な、なんだと?」
エルザは真っ赤な顔をして甲冑をがしゃがしゃ鳴らした。そこへ理恵がにこにこしながらスプーンとプリンの小瓶を差し出す。
「まあまあエルザさん、とりあえず座って座って! 試作品のプリン、エルザさんも食べてみてね」
「う……うむ。理恵殿がそこまで言うなら、この黄色いスライムの討伐に付き合おう」
エルザは甲冑の小手を外し、慎重にスプーンでプリンを掬い取る。ぷるぷると揺れるプリンを口に運んだ次の瞬間――エルザの背筋が伸びてアメジストの瞳がかっと見開かれた。
「な……なんだこの極上のとろけは? 口に入れた瞬間、まるで聖なる光の魔法に包まれたかのように芳醇な甘みが脳髄を揺さぶる。そ、それにこの底に溜まった苦くも甘い琥珀色の液体。これがプリンという名の魔導薬品なのか?」
そのリアクションを見た女子大生たちが大爆笑した。
「うわあああああ! 食レポの癖が強過ぎる!」
「脳髄を揺さぶるとか言ったよこの人! 面白過ぎるんだけど!」
「ねえお姉さん、インスタやってる? アカウント教えて!」
「い、いんすた? 異世界の古代魔法かなにかか? 私は騎士だと言っているだろうが! ぐぬぬ、だがこのプリン……あまりにも美味い。 美味過ぎるっ!」
一口食べるごとに「くっ、この甘美な毒に我が魂が侵食される」「敗北だ、この黄色い弾力に私は屈した」と大真面目に感動しながら完食していくエルザ。その横で結衣が冷ややかな手つきで蒼い眼鏡を押し上げた。
「エルザさんの食レポによる女子大生たちのエンゲージメント率200%上昇。完璧な客寄せパンダですね」
「ちょっとお姉ちゃん、そういう言い方はエルザさんが可哀想だよ?」
苦笑いする陽菜と女子大生たちに囲まれたエルザは「だからインスタとはなんだ? ピースはせんと言っているだろう!」と顔を真っ赤にしながら叫んでいる。昼下がりのテトラ・アコードには極上のプリンの甘い香りと、ちぐはぐで賑やかな笑い声がいつまでも響き渡っていた。




