第23話「一騎打ち」
レース終盤、9位にいた永野も意地の追い上げを見せ、2位まで上がってきた。
しかし、松下とのタイム差はまだあるため、全力で攻めていく。
「ストームさん!永野との差は?」
『現在、4.3秒差、4.3秒差だ。ただ、差は着実に詰まってる。ファイナルラップには1秒以内になる計算だ。』
「でも、あいつまた異次元のペースで上がってきてるでしょ?」
『あぁ、でも、でも何か変なんだ。』
「どういうこと?」
『速い周回と遅い周回が交互になっているような感じなんだ。』
「つまり、ラップタイムが速くなっては遅くなるってこと?」
「そういうこと。警戒しておいてくれ。』
会話を終える。
「…速い周回と遅い周回が混ざってる…もしかするとな…」
大輝の予測は当たっていた。
「ヒロくん、もう僕は去年の僕じゃない。しっかり学んだよ。」
「その一番の武器がこれだ。」
ファイナルラップに速い周回ができるように逆算して交互に速い、遅いを繰り返すということ。
そうすればタイヤの消費量を抑えられる。
永野と、松下の差はみるみる詰まっていく。
『残り3周、残り3周。今永野とは2.1秒差。次の周でおそらく2秒は切ってくる。』
「了解。」
『残り2周。次でファイナルラップ。現在の差は1.3秒。』
ミラーを確認すると、赤いマシンがぐんぐん近づいていた。
「…どんどん、赤いのが大きくなってる。」
ヤス・マリーナ・サーキットの長いストレートに差し掛かる。
永野がDRSとモーターブーストで加速してくる。
『抑えろ!』
あの日、リタイアにつながった時と同じセリフが聞こえてくる。
接触することなく、永野を抑え込む。
『次のストレートも永野はDRSが使える。こっちもモーターブーストで対抗しろ。』
「了解」
ステアリング裏にある、モーターブーストスイッチを押す。
微弱ながら馬力が上がり、加速する。
その微弱な差も必要だ。
2台の差は詰まり続ける。
広がらない。
「…喰われる…赤い化物に喰われそうだ。」
松下から見る永野のフェラーリのマシンは怪物と化していた。
レースはファイナルラップに突入していく。
「よしよし…差が詰まってきた。このまま。」
『よぉし、永野、順調だ!松下との差ももうないも同然だ!』
永野は淡々と加速と減速を繰り返していく。
松下との差が限界まで詰まる。
「…もらったぁ!」
松下のイン側に飛び込む。
この瞬間に首位に上がる。
「でも、でもわからない。ヒロくんは思いもしない戦い方をしてくる。」
第8コーナーを抜け、第9コーナーを目指して加速していく。
ミラーを見ると松下はアウト側に陣取っていた。
「これなら、俺らの勝利だ。」
第9コーナーへ。
この瞬間、松下がニヤける。
「油断したな…永野。それはほんの少し、オーバースピードだ。」
目の前を走っていたフェラーリのマシンが大回りなライン取りになる。
「もらったぁ…!」
この一瞬にして、首位がまた変わった。




