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18 誰にでもある第六感

…………

  …………


【ハッパー(発破)】

 

 人間の背丈ほどにも伸びる外見華麗な色とりどりの花を無数に咲かせるハッパーは、美しいが危険な植物である。ハッパーはその実に火薬を作るのだ。

 それが自然に種をまくときとか、あるいは人間も含む動物が不用意に近づくと破裂し飛び散り、接近したものを負傷させる……さらに恐ろしいことに、その種子は身体に入り込むと寄生するのだ。


 ハッパーに寄生された動物は、その肺から火薬を吹き出し、炎として吐くこととなる。やがて宿主を弱らせ死に至らしめる。死骸から新たな芽を伸ばすのだ。

 宿主を助けたいなら、下し薬が必要だが。そんな希少な薬のことなど、ふつうの学者たちからすらとっくに忘れ去られている。


 ハッパーは宿主から冬虫夏草よろしく生えた場合以外としては、活火山に面する水源豊かな土地にしか根付かない。そして、珍しい種であり、群生しない。火を点けて倒すのは容易だが、同時に炸裂するから愚策である。

 その強力な火薬を手に入れたいと思っても、接近で炸裂するから入手は至難である。もっともなんらかの賢い方法で採取できれば、単なる爆弾としてより花火として非常に価値がつく。


 だからたとえば鋭い刃物であれば、ハッパーを爆発させずに斬り捨てて、地に落とし枯れてからその実を採取できる計算だが……だれがそんな向こう見ずな戦いをしたがるものか。

 さもなければ他人や動物に寄生させ炎を吐かせたいという理由以外では、単に近寄らないというのが最善である。ハッパーは植物で、地面に根付いているから自分では動けないのだ。



【王立図書館蔵書 『魔法の真理』 抜粋】


…………

  …………


 (たまき)は、やれやれと吐息すると。それまで読んでいた一枚のコピー用紙をテーブルに伏せた。

 ちなみにテーブルは都心のちょっとしたこぎれいな喫茶店のものであり……

 率直、那津美(なつみ)などといっしょだと。とてもセレブな高校生カップルに映る光景である。モーニングにもランチにも、軽く数千円飛んでしまう店だから。


 環は次いで、問う。

「読んだがね。なにがいいたい?」

 これに那津美はすました顔だ。はた目からは魅力的なスマイルに映るだろうが……この少女の言葉は、今日もズレていた。

「魔法とはぁ、誰にでもぉ使えるからぁ、……魔法なのよねん♪」



 ……ここは異世界などではなく、現実現代の東京だ。これを他人が聞いていたら。

 ふざけているのではない限り、このカップルをバカどころか口にしてはいけない『キで始まるあの四文字』だと思うところだが。環はこんな那津美にはもはや慣れてはいた。


 魔法の話をリアルに論じる。これは狂気じみていると感じるのは一般人だが。

 環は知っていた。

 ならばなぜ、ひとは宗教を信じるのだ?

 だとしたら。ひとは神を信じていても。魔法は信じないということだ。これはロジックに欠けたところがある証拠だろう。


 宗教も魔法も信じないひともいる。まあそれはロジック的に成り立つ。

 しかし、神も魔法もどちらも信じるひとがいたらおかしいのか? ロジック的にこれも可能なのに!


 自称常識人なら、あたりまえだといって済ませるだろう。魔法など絶対に存在しないとして。

 しかしそれでいてそいつは。「宗教は信仰の自由があるから……」などとだけオウム返しに語り、けっきょくは魔法も神も、ろくに考え込むことなどないのだ。


 しかし今日、そんな常識は過去のものだ。



 などと、夢想していたら。同じことを那津美も話していた。

「……みんなの常識は過去のものとなったぁ!」

「それを理詰めで論じ、あらゆる説を論破する……おまえは無敵だよ」

「前世が少し則天武后なのよぅ。わたしはきっと……」

「俺としては太上老君か孔子を信じるよ。物騒なはなしはよしてくれ……。で」環は先ほどのコピー用紙を、ひらひらとかざした。「これにはなんの意味が?」

「これくらいがわからないっなんてぇ、わたしの環ちゃんじゃないもん。たとえば第六感」


 第六感。オカルト否定派なら、即答で。『そんなものは存在しない。超能力などフィクションのインチキだ!』 などと叫ぶだろう。

 しかしそんな奴は、ろくに科学も歴史もしらないのだ。どうせ考えたことすらないのだ。


 これらの事実を環も那津美も知っていた。



 あたりまえだ。あたりまえに人間には五感がある。それをみんな不思議に思わない。それがひとつ。


 動植物にはこれらの感覚があるもの、ないもの。さらに人間を超えるものもある。

 視覚域聴覚域などの感覚の広さ、さらには発電や発光すら。

 犬は人間よりはるかに嗅覚が優れるし。犬笛、で知られる通り聴覚が広い。猫は暗闇で光る眼でわかる通り、暗視の能力がある。


 電気ウナギなど、獲物を感電させるほどの電力を発する。ホタルなど発光する生き物も幾種もある。

 恐ろしい毒蛇とかは牙から猛毒を出すし、うっとうしい蚊は刺されても痛くないかわりにかゆくなる毒を出す。

 人間は飛べないが、鳥に虫は飛べる。


 ……これらで証明だろう。つまり、繰り返すが。

 魔法とは実在する。ただ当たり前のことだから、ふつうひとは自覚しないのだ。



 環は聞いた。

「では、このハッパーとやらは。異世界では普通に存在していたのだな……火薬を実らせる植物か」

 

 那津美は得意げだ。

「これに寄生されればぁ、口から炎が吐けるようになるのぅ。古典RPGのドラゴン化魔法みたいにぃ……」

 

「しかし、寄生されたら死ぬのだろ?」

「そこはそこぅ。現実世界のぉ、バイオテクノロジーで遺伝子操作してもらってぇ、品種改良を……」

 

 環はうめいた。繰り返すが、この那津美の前には暗黒神話のコズミックホラーなど、可愛いものだ。

 いや、那津美は環にとって世界でいちばん可愛いが……それを思うと思考回路が無限ループになってショートする環である。

 ロジックですべてがわかるのが世界ではない。それなのになんでも理詰めに攻める那津美は、環にとって現実世界のまさにユニークな怪異だった。


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