五年前の回想 アンナ・ファインワース
長引いていた夏風邪治ったので、再開します
アンナはマニーに個人的に雇われており、来た目的はプーセルだけに話す。……という簡素な情報を得る為に、ジロを介しての会話が必須となり、ジェリウスは幾度となくイライラを爆発させた。
「……ジェイさん、落ち着いて。なんかイライラしすぎじゃない?」
「うっせぇ。おい、漆黒女……なんで、ジロには普通に応えやがるんだ?」
帰路、三人は周囲の気配を探りながら歩いている。ジェリウスは根元だけになってしまった長剣で器用に道を切り開きながら、最後尾を歩くアンナに問いかけた。
返答が絶対に返ってこない事を知りつつも、変わらず質問を続けるジェリウス。
「……」
「おい、ジロ」
毎回、質問をしてからきっちり一分後、ジェリウスはジロに命令する。毎回、質問をしてから一分待つというのが、ジェリウスの子供っぽい意地のようでジロは少し可笑しかった。
「ファインワース様、どうしてなのですか?」
「ヒ、ヒヒッ! そ、それは、み、見えたから……」
「見えた……ですか?」
「……あぁ、いつもの戯れ言か。しょ~もねぇなぁ」
その返答にジロは首を捻りつつ、ジェリウスの様子をうかがうが、ジロの前を歩くジェリウスはその答えで納得したように見えた。
「そ、それよりも、ジロ。わ、わ、私にた、対して、た、た、他人、ぎ、ぎょ、行儀、す、過ぎない?」
「……すみません、ファインワース様。他人……ですよね? それともどこかでお会いしましたか?」
言いながらもジロは、幼少の頃より、祖父、父、兄に連れられてありとあらゆるパーティや催し物に参加してきていたが、アンナとの面識は絶対にないと断言できた。
「しょ、しょ、初対面」
「……そうですか」
「ふんっ。親密さを求めてくんのも、こいつに言わせりゃ、神の思し召しだ。理解を諦めやがれ。馬鹿弟子、こいつのイカれっぷりなんざ、いちいち気にしてたら日が暮れるだけだぜ」
「あ、アン? アンちゃん? あ、アニーは? ア、アナ? ア、アーニャ? い、いいかも、ア、アーニャって、よ、呼んで……。だ、大丈夫、ジロだけの、ジロだけがよ、呼んでいい、あ、愛称にす、するから……」
ジロの前後を歩く実力者達の、独り言のようなジロに喋ってるような、どちらともとれる喋りにジロは少し閉口する。
「……それでは、アンナ様、でお願いします」
ジロは後ろを振り返りながらペコリと頭を下げ、アンナはがっくりと細い肩を落とした。
「ところで、あの~、思し召しってなんなんでしょうか?」
「それはなぁ……」
ジロの疑問への返答は、意外にもジェリウスから返ってきた。
「こいつは神様とお喋りができるんだとよ」
「神とのお喋り? あぁ、神官の説法によくある神との対話とか、啓示とかっすか? ……神、……って? 教団の絶対神?」
「いんや、違う。こいつは教団だろうと、土着のマイナー宗教だろうと、特定の宗教への信仰心は持ってねえ」
「なのに、神? 会話って一体?」
「か、会話と、ち、違う。て、て、てん、てんけ、天啓」
「……あぁ、カルラから聞いてたな。その天啓とやらも、……くっだらねえな。……いや、でも待てよ? それがジロだってのか?」
「……」
三人が草を踏みしめる音しかしない。
「聞け、ジロ」
一分分後にジェリウスがまたジロをせっついた。
「えーっとジェイさんは、いつも通りと――」
「れ、レイルの、い、言ったのは、う、う、嘘」
「嘘じゃねえだろうが、俺様ぁカルラやらアトウッドやらアスマから聞いてるぜ?」
「そ、それが、う、嘘。れ、レイルはい、いつも、い、いい加減だから、か、か、勝手に、そ、そうか、解釈してる、だ、だけ……。わ、私は、み、未来がみ、見える」
「……あ~、言われりゃそんな話だったかもなぁ。……な? 馬鹿弟子。こいつは頭がイカれてやがんだろ?」
ジロはジェリウスよりだいぶ大人な対応能力を持っていたので返事は控えた。




