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五年前の回想 夜の中の漆黒 その3


「協定はどうするのさ!? 俺達はティコ・ティコの五人と違って、家から離れるには許可を取らないといけないし、プーセルからは許可取ったとか何も聞いてないんだけど! 真夜中だけど、見張りはいるんじゃ!?」


 声を潜めながらジロは問いかける。


「でーじょうぶだ。俺とプー公とカルラとマリアで見張りは全員始末した」


「!!」


 ジロはジェリウスから血の臭いがしていた事を意識する。


「……そんなに緊迫してる?」


「おう、緊急事態だ。連合の奴等には微塵の情報も渡すわけにはいかねえ。今はマリアとプー公が他にも見張りがいねえか探ってる」


 ジェリウスが走りながら頻繁に上を見ている事にジロは気づくが、霧と闇の為何を確認しているのかまでは分からない。


「全員、殺した?」


 ジロはまったく視界の利かない中、ジェリウスの背中だけを頼りに同じ速度でついていくが、時折地面に足を取られてひっくり返る。その度にジェリウスは苛立(いらだ)ちながらもジロを待つ。


「眠らせるのが面倒くせえ奴らだけな。残りは昏睡(こんすい)させてるだけだ。斬り殺した奴等は、未熟な奴が殺ったように見える痕跡をわざわざ付けておいたから、おめえの罪に、見張り殺しの罪状上書きだぜ。連合に対して箔が付いてよかったなぁ?」


「それは、……まぁいいか。構わないけど……ティコ・ティコがやったってのじゃまずい事態なの?」


「どうなるか分かんねえから、一応そういう手段をとったまでだ。子供だましだが、てめえが今後も声を大にして言い張れば、それが事実になる」


「連合との間に、疑惑と軋轢(あつれき)を生んでまで、一体何をしに行くのさ。……あっ!? エリカとリーブは!?」


「でぇ丈夫だ。知らせてねえし、カルラが手近な見張りを無力化させた後は、家でひとまず待機させる段取りだ。事態がどう転ぼうと、カルラのやつがどうにかするだろうぜ」


 ジロはそれを聞いてホッと胸をなで下ろす。


「で? 何が起きてるのさ?」


「それを確かめに行ってんだよ! 目標はおかしな気配を垂れ流してやがる。……リンドスの連中が気づいてるとは思えねえが、アルゼの野郎なら気づいてもおかしかねえ、急ぐぞ!」


「リンドス・イポーティスが絡んできそうな事態なの!?」


「さぁな! おっと、向きが変わりやがったな。こっちだ!」


 そう言うとジロの走る道はみるみる内にさらなる悪路となり、ジェリウスが長剣を抜き、獣道(けものみち)ですらない、背ほどの草木が生いしげる茂みへと剣を振りながら踏み込んだ。


「俺は無理だよ!? 夜だし、魔法使えないし!」


 霧と夜の闇で視界ゼロの中、(つま)いた瞬間に立て直し、次の瞬間また別の根か何かに(つま)くといった走りをしつつ、ジェリウスの本気の荒野移動法を知るジロは声を上げる。


「ボケ、魔法反応があるから装備を置いてきたっつてんだろ? 俺も派手に反応が出るような魔法なんざ使わねえ。一緒にチンタラ走ってやんよ。背中をつまめ、俺様が露払いをしてやる。躓いてコケてもいいが、握力で地面には転ぶな、俺様からは離れるなよ」


「俺もエリカ達と同じように、家で待ってた方がよかったんじゃ!?」


「あっ」


「あっ! って言った! 気づかなかったの!?」


「言ってねえ。これは、あれだ。俺様に憧れてやがるから、ちっと遊んでやっかっていう、シゴきだ」


「絶対嘘だ!」


 もはやジロは自力で満足に走っているとは言えず、必死になってジェリウスになんとかしがみついている。


 視界ゼロの中、二人分の重みを苦にもしないで走るジェリウスの背の木綿のシャツを、ジロは力一杯握りしめ続けある。ジェリウスがジャンプすれば遅れて必死でジャンプし、曲がればそれに必死で付いていく。木で(すね)をしこたま打って足を取られても、必死の握力と根性とジェリウスの駆け抜ける速度が、ジロの体を地に転ばさせない。


 ズボンはすぐに裂け、足からの流血を感じるが、それでもジロは必死になってジェリウスの背のシャツを握りしめ続ける。


「ほう! 魔法はからっきしだが、てめえは体術のみなら中々のモンだな。不様に転んだら、笑おうと思ってたのによっ!!」


「止まって、俺の姿を見たら、ジェイさんの性格なら笑い転げる事間違い無しだと思うけどね!?」


        ◆


 ジェリウスは時折立ち止まって空を見上げる。


 ジロはそのわずか数秒の休息時間を利用して、ジェリウスのシャツを握り直していたが、今回はすでに十数秒経つがジェリウスはまだ動かない。


「こんなのジェイさん持ってるんだね」


 なんの変哲もない観賞用途にしか見えない小刀を見ながらジロは意外に思った事を訪ねる。


「主に奇襲・暗殺用に使うやつだ。テレウィングなんぞ腰に差して、標的に近付いたらどんな雑魚にだって気づかれちまうだろ? 

「だからそれ用に、魔力を一切帯びねえ業物も持っておくのが、奇襲や隠密行動の鉄則よ。まぁてめえがオルゴールを包んでたような封印紙を用意すりゃ、AF(アーティファクト)でも持ち運べるんだが、今は準備してる時間なんぞねえからな。今こうして魔法に頼らず足だけで走ってるのもそういうこった」


 ジェリウスはキョロキョロと空を見上げるようにしながら、そう答えた。


「魔法使ってないの!? なのにこの――」


 途端、再度ジェリウスは走り出し、ジロは言葉を発する余裕を無くす。


「ったりめえだろ! なんの為に魔力反応のある装備を全部置いてきたと思ってんだ!?」


 ジロはまたも木や地面のくぼみに足を取られながらジェリウスから離れまいと必死になっていた為、ジェリウスの言葉に返事をする余裕を再び失った。



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