レプリカ
「そんなん、知らんがな」
何のためらいもなく、厚東はあっさりと断言する。多少は考えてくれるのではないかと期待していた馬渡は呆然として、次の言葉が出てこない。
――こんな感覚の人が弁護士?弁護士って弱者の味方じゃないの?それも神社の?神社って神様がいるところで、神様は困っている人に手を差し伸べるんじゃないの?――
彼は自分の認識が甘いのか、厚東が異常なのか分からず混乱する。
「こっち責められてもお門違いや。そんな事情、ワイら関係あらへん。子どもほっぽって別れとるんやろ。恨むんなら親恨み。親が親なら、子も子やな。血が穢れてるんちゃうか?妹さんもろくなやつちゃうやろ。死んで当然や。人の金で生き延びようなんて虫が良いんちゃうか?そんなやつ早う死んだ方が世間のためや」
確かに自分はろくな人間じゃないというのは十分わかっているから、それを非難されたり指摘されるのは十分我慢できる。でも妹は全く何も悪くない。自分一人が非難されるのなら十分我慢できたが、妹まで貶されるのは彼には我慢ができなかった。
――この弁護士は異常だ、明らかに間違っている――
馬渡の中で何かがプチンと切れた。彼は部屋の中に石下神社の御神体の布都御魂大神刀のレプリカが展示されていることに気付く。レプリカと言っても金属製で刀身部分は研ぎ澄まされていた。彼はその剣のもとにつかつかつかと進み、剣を掴み鞘を抜く。刀身がキラリと光る。そして、わぁーと大声で叫びながら厚東の方へ走り寄り、斜めに振り下ろす。
厚東は一瞬何が起こったか分からずその場に凍りつき、肩から胸にかけて切られスーツのシャツに斜めに赤黒い血糊がにじみ出てくる。自分が襲われたと気づき片手で防御姿勢を取ると、今度は馬渡は刀剣を両手で持ち、厚東の心臓めがけて突き刺す。刀剣は彼の胸を貫き背中から刀剣の先端が出るも、厚東は無意識のうちに刀剣を掴み抜こうとする。馬渡は刀剣を引き抜くと、胸の傷口から脈に合わせて血が規則的に吹き出すのが見えた。
「おっ、おっ、おっ」
打ち合わせ中の二人は、声にならない声を出して、腰を抜かして床にしゃがみ込む。馬渡はとにかくこの場を離れなくてはと、部屋を飛び出す。手には刀剣を持っている。
廊下に飛び出し、出口を探す。弁護士室では腰を抜かした男の一人が気を取り直し警備室に電話をかけている声がする。




