会議中
馬渡はそれを聞くと、納得したように受付前の待ち合わせソファーに腰を下ろす。が、すぐに立ち上がると、受付前を通り過ぎて横の通路を奥に進み始める。
「ちょっとお待ちください、お客様」
受付の制止も聞かず、彼は廊下を進む。会議中ということは会議室にいるはずだから、ちょっとだけでも話を聞いてもらおうと考える。
後ろであたふたとする受付の中年女性を後にして、彼は日本庭園の中の渡り廊下を進み別棟に着く。以前一度来た時の記憶でこの建物に会議室はあるはずだ。廊下の上に”会議室”と書かれたプレートが取り付けてある。その扉を開けたが誰もいない。
――確か顧問弁護士の部屋があったはず――
彼は廊下を進みT字路を右に曲がり、更に渡り廊下を渡って大きめの別棟に入る。ここは神主や各室長などの個室がある建物だ。廊下沿いに扉がいくつか並んでいる。順に名札を追っていくと、厚東顧問弁護士と書かれた部屋がある。彼は扉を開ける。
3人の中年男性がソファーテーブルを挟んで話し合っていた。その中のひとりに見覚えがある。厚東弁護士だ。厚東は石下神社へ退職届を提出し彼の業務の引き継ぎの打ち合わせ中だった。3人はポカンとした顔で突然入ってきた彼を見つめる。部屋を間違えたのだろう、という感じだ。
「神社PRのことでお話させてください」
厚東はあーと声を出し、
「今取り込んでいるから、後で」
と再び3人と話の続きを始める。
馬渡は引き下がらずに、
「すぐ終わりますから」
と真剣な面持ちで頭を下げる。
「自分の悪いところは直します。もう二度としません」
「もう決まったことやから」
「でもPRを獲得できないと、とても困るんです」
馬渡は比呂美が神主の養子になる件を思い出す。それを盾にすれば、厚東の考えが変わるかもしれない。
「矢野さんを神主さんの養子にすると聞きました。矢野さんは神主さんの身内になるわけですよね。僕は矢野さんと婚約しているんです」
「そんなん関係あらへん。それにあの話は無くなったんや」
「えっ、どういうことですか?」
「養子の話は立ち消えということや。さあ、帰った、帰った」
厚東は手を振り、追い払う素振りを見せる。あからさまに迷惑がっていてその表情には軽蔑の念も多分に含まれている。そしてその軽蔑の念は虐待動画のせいなのか、年の差が大きく若すぎるためなのか不明だが、馬渡にはどちらでも同じだった。それに比呂美さんの養子の話がキャンセルになったというのもショックだった。
神社PRの企業案件が取れなくても、最悪比呂美と結婚し物部家の一員になれば、何かしらの援助が期待できると予想していたのに、それも全く無くなってしまった。
まともに相手にされていないと感じる。同情を誘うつもりは全く無く、何とか会話を続けさせるために、事情を説明することにする。
「実は僕の妹が不治の病なんです。手術代が必要なんです。余命数ヶ月なんです。僕ら兄妹は、両親が離婚して母親に引き取られ、でも母も病気で早くに亡くなり二人だけで生きていたんです。僕にとっては妹は大切な存在なんです。だから妹の命のためにPRの企業案件を復活させてください。お願いします」




