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直談判

馬渡は石下神社へ何度電話しても繋がらないので、とうとう直談判しに行くことにする。クローゼットを開けて一番フォーマルっぽい服を探す。大学生だしスーツなんか持ってないけど、一番真面目っぽく見える上下を選び手早く着替えると、急いでアパートを飛び出し駅へ向かう。駅へ早足で歩きながら妹のことを思い出す。今度の石下神社とのPRには妹の手術費用がかかっている。

子供時代のことを思い出す。妹と二人で親のいないガランとした殺風景な部屋で二人で過ごしたっけ。親は早くに離婚して、母一人子供二人の生活で、母は働き詰めでほとんど家に居なかった。だから自分が妹の食事を作ったり服の洗濯をしたりしていたっけ。貧しいながらも妹との二人の生活は楽しかった。妹は自分を頼ってくれたし、自分は妹の世話をすることにやりがいを感じていた。その後母は過労のため病気で亡くなり、妹のために学校をやめて働こうかとも思ったが、病床の母の”学歴はあったほうが良い”という言葉で思いとどまり、昼間は学校、夜は働くというハードワークをこなしてきた。それもひとえに妹のためだった。そんな妹が数万人に一人という不治の病になり、中学入学の頃からずっと入院している。自分にとってもはや妹こそが人生の全てだったのに。

余命宣告を受け、生きるためには先進医療を受けなければならない、でも保険は効かない。今すぐにも手術費用が必要で、悠長なことは言っていられない状況だった。

何としても今回の神社PRの企業案件を獲得する必要があった。

比呂美と結婚すればもう安泰なのは間違いなく、神社の神主の家族として治療に専念できる。しかしそれにはあと1年待たなければならない。妹の手術を1年も待つ猶予は無かった。どうしてもこの1年を乗り切る必要があった。

新幹線から京都駅で近鉄に乗り換え橿原神宮前駅で降り、タクシーで石下神社へ向かう。

神社前でタクシーを降り社務所に向かう。前に一度来たことがあるから、建物の位置関係はおおよそ分かる。

社務所の受付にPR契約をしている馬渡で、担当の人と話をしたいと伝える。

「ご予約はされてますか?」

それが出来なかったから直接来た。いいえと答えると、受付担当は2,3か所に電話をかける。電話での受け答えを聞いていて、PR契約を進めていたのが厚東という顧問弁護士だと分かる。

――そういえば、そんな肩書だったような気がする――

「申し訳ありません。ただいま厚東は会議中でして、この後も会議や外出の予定が詰まっておりますので、後日ご予約を取ってお越しいただきたいとのことです」


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