薔薇色
私はいつも通りの一日を過ごしていた。学校へ行って授業を受けて、昼休みに自分で作ったお弁当を食べて、残りの時間は自席で本を読んでいる。
突然スマホがブーブーとマナーモードで振動する。SNSで通話の着信を示す音だ。誰だろうと思って画面を見ると”馬渡さん”と表示されている。こんな昼間に連絡してきたことがなかったからびっくりすると同時に嬉しかった。
私は携帯を抱えて教室を飛び出し廊下に出て、どこか落ち着いて話せる場所を探す。校舎の端の階段の踊り場が人目につかないことを思い出す。どの教室からも遠いので不便だから元々階段として使われなかったし、その踊場は上下どちらの階の廊下からも見通しが悪い所だ。
私は踊り場につくと急いでスマホの画面のボタンをスライドさせ通話に出る。
「すみません、遅くなって。矢野です」
「あっ、馬渡です。今良い?」
「はい、大丈夫です」
「もしかして授業中?」
「いえ、休み時間です」
「良かった。あのー、さー、ちょっと聞きたいんだけど、最近俺のことで変な噂とか聞いたことある?」
――んっ?突然何を言うのだろう?急に珍しく学校にいる時に電話をかけてくるから、私はてっきり私の声が聞きたくなったのかと思ったのだけれど――
「いえ、別に何も。どんな噂ですか?」
「あ、いや、別に聞いたこと無いのなら気にしなくて良いよ。ゴメン時間取らせちゃって」
それから少し間をおいてから、改まって彼は言う。
「このあいだ僕が言ったことは本気だから。僕は本気で君のことが好きだし、どんな事があっても君を守る」
学校でそんなセリフを聞かされると恥ずかしくなってしまう。
「だから、比呂美さんも僕を信じてほしい」
「もちろんです」
「良かった。その言葉を聞きたかった。これからいろいろ大変なことがあるかもしれないけれど、二人で乗り切っていこう、なっ」
私はその後自分が何を答えていたのか思い出せない。頭がポ―っとなってしまって何か一生懸命馬渡さんの言葉に返事をしていたような気はするけれど、完全に上の空でとにかく嬉しくて信じられないくらいで、気づいたら自分の席に戻っていた。
今まで学校卒業したらどうしようとかいろいろ心配していたけれど、もう私には馬渡さんがいる。彼は一緒に困難を乗り越えていこうと言ってくれた。私の未来はもう保証されたようなものでまさに薔薇色。急にあらゆることに自信が持てるような気がしてきた。
その後授業が始まったけれど、ほとんど上の空で時間が過ぎていった。




