着信拒否
しばらく経って落ち着くと、彼はちまちまと動画の削除申請を各SNSに対して行う。AI生成による偽動画で誹謗中傷を受けているためという理由を各SNSのクレーム窓口へ送付する。
また自分のチャンネルの紹介ページにも声明としてAI生成による偽動画が出回っており、事実無根であり、法的処置を検討中とコメントを書く。このコメントを境に、フォロワーからは温かいコメントが続くようになる。
“有名になると僻む人も出てくるので大変ですね”
“頑張ってください”
昼近くまでPCにかじりつき削除依頼の申請をしていると、ピロンとスマホにメール着信の音がする。
普段メールは使わずSNSのチャットですましているから、嫌な予感がする。メーラーを開いてメールのタイトルを見て全身から力が抜ける。
“今後の石下神社のPR活動について”
ついに来てしまった。このタイミングで届くということはキャンセルに違いない。ざっと目を通して、細かいことは全く頭に入らなかったが、”諸般の事情を考慮して、今回のプロモーション契約は見送らさせていただきます”という文字のみ理解する事ができる。
覚悟していたこととはいえ、もしかしたら回避できるかもしれないという一途の望みが絶たれた衝撃は大きかった。しばらくボーッとして物思いに耽る。
――もしこの動画が本当にAI生成によるものだったら、石下神社の判断はあまりにも軽率じゃないか?嘘動画なんて誰でも簡単に作れるわけだし。これだから年寄りは情弱なんだよな――
彼は石下神社に電話をかける。受付の女性が出たので総務課長へ取次を頼むと、今は都合が悪いので出られないと言う。その時はおとなしく引き下がり、しばらくしてから再度かけ直すも同じ返答だ。
1時間くらいしてからもう一度かけ直すと、自動音声で「この番号からの通話はおつなぎできません」と電話自体が繋がらなくなってしまった。
着信拒否設定をされたに違いない。
彼は直接会って偽動画だと言って説得し、再度企業案件を獲得しようと思う。今までの経験上、新しく案件を開拓するのがどれだけ大変か知っていたからだ。少しでも自分に興味を持ってくれた石下神社を説得する方が楽という判断だった。
彼は早速服を着替えると奈良へ行く準備をする。その時比呂美のことを思い出す。彼はスマホのSNSで通話ボタンを押す。




