資本の蓄積
神主は続ける。
「時代は進み、吉野の水銀は枯れた。反対に秦・藤原連合は新田開発を進め日本中から年貢を集め、それで名実ともに日本の支配者になった。しかし彼らは決して物流には手を出して来なかった。1000年経った今でも協定を守っておるんじゃ。そんな時に我々が卑弥呼からの正当な支配者だと名乗り上げてみろ。協定を破り彼らの利権の侵害と受け取られかねん」
「じゃ、わいらはずっと名乗り出られへんちゅうことか?」
「そうじゃ」
「これから何十年も何百年も」
神主は頷く。
「それは不公平やないか?永遠に表に出られへんなんて」
「いや、そうでもない。表に出る彼らはあらゆる責任を取らされる。裏に潜った我々は結果的に経済を支配した。そして経済こそが国家なんじゃよ。つまりいつの間にか彼らと我々のポジションは入れ替わっておる」
「わいは納得いかへんな。経済なんて所詮はただの金の話やろ。どう頑張ったって行き着く先はただの成り金止まりやないか」
「実際それが全てじゃよ。君は弁護士だから政治の世界へのあこがれがあるのかもしれないが、わしに言わせれば政治家はただの舞台俳優だよ。脚本を書いているのは我々利権を操る資本家じゃ。共産主義も中東のイスラム原理主義も、根本は利権集団じゃ。そして利権を調整し資本の蓄積こそが社会を良くする原動力だとわしは信じておる。資本の蓄積こそがあらゆる社会問題を解決し医療技術を発達させ福祉を向上させる。資本の蓄積は社会的な正義なんだ。君も当然そう考えていると思っていたんだが」
彼は厚東の顔を覗き込む。でもそれは冷たい目つきだった。
「学生時代からの親友だと思っていたのに、残念だ」
神主はそう言うと、机の引き出しから白紙の退職届の用紙を取り出すと、机の上の良く見える位置に置いて、部屋を出ていった。




